SNS時代の新感覚ホラー 映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』ダニー&マイケル・フィリッポウ監督インタビュー
『ヘレディタリー/継承』を超えて、全米でA24ホラー史上最大のヒット! アリ・アスターやジョーダン・ピール、サム・ライミ、スティーヴン・スピルバーグらも絶賛した新世代ホラーが、12月22日(金)にいよいよ日本公開される。監督を務めた気鋭の双子YouTuberダニー&マイケル・フィリッポウに制作の裏側について話を聞いた。 【写真つきの記事を読む】全米でA24ホラー史上最大のヒット!映画のこわーい見どころをチェック!(全11枚)
設立10年でアリ・アスターやダニエルズといった気鋭のクリエイターたちを拾い上げ、『ミッドサマー』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(通称:エブエブ)』といった斬新な作品を次々と送り出してきた映画制作・配給会社「A24」。本年度の米アカデミー賞を席巻した『エブエブ』、『ザ・ホエール』に続き、賞レースをにぎわせている『PAST LIVES』(原題)等々、その快進撃はまだまだ止みそうにない。 そのA24が米配給を手掛け、A24ホラー作品史上最高興行収入を記録した『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』が12月22日(金)に日本上陸。握手をし、呪文を唱えると霊が乗りうつる謎の“手(の剥製?と思しきもの)”を入手した若者たちが恐ろしい目に遭う──という筋書きだが、ただ怖いだけではないテーマやメッセージ性が内包されている。 本作を手掛けたのは、オーストラリア出身の双子YouTuber、ダニー&マイケル・フィリッポウ。A24の次代を築くであろう2人に、本作の舞台裏を教えてもらった。 ■ソーシャルメディアにおける危険な“慣れ” ──謎の“手”を使った降霊会で、若者たちが命の危険がある遊びを行った後、ハイになって「もう一回やろう!」となる流れが恐ろしく、それを皆で撮影・共有するグロテスクさに現代的なリアリズムを感じました。非常にヒリヒリした心理描写でしたが、このあたりは脚本の初期段階から入っていたのでしょうか。 ダニー:そうですね。この映画の大きな着想源は、近所の男の子が初めてドラッグを体験したときに悪い反応が出てしまい、床でひきつけを起こしてしまったにもかかわらず、側にいた友達が笑いながらその様子を撮影していたことでした。その映像を観たときにすごく嫌な気持ちになり、それを映画で表現しようと思い立ったのです。怖さに慣れたり麻痺したりしてしまうことの恐ろしさ──その状況に対して、人間的な思いやりを持って関わろうとせず、ただ目の前の光景が視覚的に可笑しいから笑ってしまっていることが、とても怖いと感じたのです。 マイケル:そこに、ソーシャルメディアにおける危険な“慣れ”を組み合わせていきました。現代では、みんなが「“イイね”がほしい」「注目されたい」状態になっているので、そうした欲望を満たしたいときにネガティブな映像は注目されやすいのです。特にその傾向は若い世代に強いので、若者たちを描く際にはその要素は不可欠でした。 ダニー:そして、時代的な流れもありますよね。一昔前だったら「危ないところに行ってはいけない」というのが当たり前に言われていたのが、「暗くて危険な森があるのか、じゃあ行って撮影して投稿しよう!」というマインドに変わってきている。 ──よくわかります。自分自身も、日常で自分の身にアクシデントが起こった際に「これSNS用のネタになるんじゃないか」と思ってしまう瞬間がありますし。そうした自分が恥ずかしくなるような効果が、本作にはありました。 ダニー:そういう意味では、普遍的なものを描いているのかもしれませんね。 マイケル:最初、僕たちは「この作品が自国以外の人々に響くだろうか?」とちょっと心配だったんです。ですが、こうやって様々な国の方が受け入れてくれたことで、「やっぱりみんなも“そう”なんだ」と思えました。 ■動画と映画の違い ──いまお話しされた現代性と普遍性のバランスに関連して感じるのは、本作の構成の妙です。冒頭に「後々の伏線になるんだろうな」という意味深なパーティシーンがあり、主人公の高校生・ミアの家族や友人関係を丁寧に描いてから、最初の降霊の儀式が始まります。変に急がず、じっくりと組み立てていくところに、おふたりが映画の力や観客を信じているのが感じられて、とても好きでした。 ダニー:僕たちは、この映画をホラーでありながらドラマにもしたいと思っていました。そのため、観客が共感できるようなキャラクターを確立してからホラーな事件が起きる、という流れにしたいと考えたのです。状況を理解してもらうことで、ホラー要素がより効いてくるとも思いました。 ──昨今の観客の傾向のひとつとして「飽きやすい」「(長い時間の視聴に)耐えられない」というのがあると思います。YouTubeで活躍されているおふたりは、YouTubeなどの動画と映画との違いをどう捉えていますか? ダニー:『TALK TO ME』の序盤の展開は確かにスローですが、飽きさせないように色々仕掛けは施しました。とはいえ、この映画をYouTubeにアップしても、誰も最後まで観ないだろうとも思います。 YouTubeに動画をアップすると、みんながどれくらい観ているのかの分析が出てきますよね。昔、僕たちがある映像をアップしたとき、1分間の美しい映像のあとにジョークが始まる構成にしたら、80%の視聴者がジョークまで耐え切れずに離脱していました。オンラインはそういう場所です。でも、映画館に“行く”となったら、みんなはそこに動画とは違う体験を求めていることが想像されるので、ある程度は耐えられるはず。それでも、長すぎると嫌がられるだろうと思って、ドラマ部分を20分短くしました。「これくらいの時間拘束なら観られるな」と、気軽に映画館に足を運んでほしかったからです。 ──本作の尺は95分ですが、締まった構成にしたぶん、意図的に説明しすぎないのが、観客に想像の余地・余白を残していると感じました。「ミアが抱えている過去とは?」「この“手”はどこから来たのか?」ということを想像しているうちに、どんどん前のめりに、能動的になっていく効果もありますね。 ダニー:そうですね。ミアの過去を知らせるため、彼女と母親のポートレートを撮ってはいたのですが、見せない決断をしました。ストーリーが進むなかで、観客が自分で気づいていく、あるいは考えて理解していくことが大事だと思い、「最初から全部を見せる必要はない」と決めていました。 ただ、実は一時期大きなスタジオからアプローチを受けていた際に、「この“手”がどうやって来たのか説明しろ」とリクエストを受けていたんです。でも、それをしたら面白くないし、あの“手”が持つ怖さが減ると思いませんか? マイケル:大きなスタジオだと、クリエイティブな部分のコントロール権が自分たちにありません。そういったエピソードもあり、100%自分たちが責任を持てるようにインディペンデントの映画にしよう、と決めました。 ■いつも新しい発見があるように ──そうしたクリエイティブのこだわりについても色々と聞かせてください。まずは、降霊中に黒目がどんどん広がっていくアイデアが鮮烈でした。「90秒以内に中断しないと危険」というタイムリミットがあるなか、時間の経過を視覚で表現するという秀逸な演出はどのようにして生まれたのでしょう。 ダニー:アイデア自体は、「ドラッグでハイになると瞳孔が開く」というのを、もっと大げさにしたバージョン、という発想でした。僕たちは「全てのエフェクトがCGではなく、実際にやっていること」を大切にしていたんです。そのため、サイズが大きいコンタクトレンズを実際に目に入れてもらって撮影しました。 子どもが自分の目をえぐり出そうとするシーンがありますが、あれはメーキャップで彼の顔をもう一つ作り、かぶってもらった状態で実際にやってもらっています。 ──降霊する瞬間のドライブ感あるカメラワークも印象に残りました。 ダニー:憑依する際には幽体離脱のようにしたい、というビジュアルイメージに基づき、自分たちでiPhoneなどで「こんな感じ」というものをまず撮ってから、撮影監督と共有しつつ練り上げていきました。先に挙げた目の演出やメーキャップ然り、試行錯誤を繰り返しながら作っていきました。 ──おふたりは、本作を作るうえでインスパイアされたものに、映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)や『エクソシスト』(1973)、『殺人の追憶』(2003)などを挙げていましたね。 ダニー:そうですね。『ぼくのエリ』や『エクソシスト』はキャラクターがしっかり描かれたうえでホラーが効いているところがすごいと思いますし、『殺人の追憶』は様々なジャンルやトーンが混ざっているけれど、ひとつの作品としてバラバラになっていない、というところに影響を受けました。 ──『TALK TO ME』も、タイトルの解釈の面白さをはじめ、先ほどのお話にあった若者の危うさや、“親離れ”といったテーマが敷かれていたりと、多層的です。 ダニー:『TALK TO ME』というタイトルは、観た人によって色々な意味に解釈できると僕は思っています。脚本を書いているときも様々なレイヤーを重ねていき、何層にもすることで「何回観ても、いつも新しい発見があるように」とすごく気を付けていました。 ■自分たちの100%を注ぎたい ──最後に、おふたりが「ものづくり」をしていくなかで大切にしていることを教えて下さい。 ダニー:それが何であれ、とても個人的なものを入れることを大切にしています。例えば、脚本を書いているときには、どんな小さなセリフであっても自分が深く理解している内容を入れること。そうすることで、撮影現場で俳優や撮影監督にきちんと伝えられるし、どんな質問が来ても答えられるからです。 先ほどお話ししたように、ハリウッドの業界人から様々なリクエストを書いたメモを渡されましたが、それを鵜呑みにしてしまったら自分自身が把握できないことをやることになりかねない。常々自分をおバカな監督だと思っているのに、もっと愚かな監督になってしまうので、ちゃんとすべてを把握して「何でも答えられる」監督であろうと努めています。 マイケル:あとは、100%実写でいきたい(CGなどを使わない)と思っています。そして、自分たち自身もそこに100%を注ぎたい。小切手のためにやるのではなく、心を込めて全身全霊で挑むこと──その作品がいいか悪いかの判断は別として、少なくとも自分たちはやり切ったと思えるようにしたいと思っています。 ──その結果が、A24の米国配給につながったのですね。 ダニー:そうですね。これからもA24とは一緒に映画づくりが出来そうなので、ワクワクしています。『TALK TO ME』の取材を受けるなかで、あるインタビュアーから「君たちはインディペンデントで第1作を撮ったわけだけど、これからはスタジオと一緒に仕事をする心の準備が必要だね。最終決定権はスタジオが持っているし、全てが自分の自由にならない覚悟をしていたほうがいい」的なことを言われたのですが、A24においては全く違いました。話し合いをしているなかでも、フィルムメーカーを大事にして、ビジョンをとにかく尊重してくれています。 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』 12月22日(金)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー! © 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia 公式サイト:https://gaga.ne.jp/talktome/ マイケル・フィリッポウ/ダニー・フィリッポウ 1992年11月13日生まれ、オーストラリア出身の双子。2013年に開設したYouTubeチャンネル「RackaRacka」は総再生数15億回以上、679万人の登録者数を誇る。2015年、同チャンネルは第6回ストリーミー賞ベスト・インターナショナルYouTubeチャンネルを受賞。2人は「Variety」誌の「Famechangers 2016」に選ばれ、2017年にはビジネス紙「オーストラリアン・ファイナンシャル・レヴュー」の「Cultural Power List」で5位にランクイン。オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞最優秀ウェブ番組賞ほか、数々の賞を受賞している。ジェニファー・ケント監督の『ババドック~暗闇の魔物~』(14)に撮影クルーとして参加。『Talk To Me』の続編『Talk 2 Me』でもメガホンをとるほか、世界的人気ゲーム『ストリートファイター』の実写化でも監督を務めることが決定している。 取材と文・SYO、編集・横山芙美(GQ)