国会議員が採決を「棄権」する意味 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
国会議員が持つ票の重み
さて「棄権は悪いこと」なのでしょうか。予算案や法案、内閣不信任決議案での棄権は国会議員の役割を果たしていないといわざるを得ません。 山本議員の行動は押しボタン方式だから「棄権」と分かりました。しかし「起立」だったらどうでしょうか。特に賛否が拮抗している法案などで、出席して「棄権」という行為は座っているという形になるでしょう。すると反対と同一にカウントされてしまいます。そのため衆議院先例集(議院の会議運営に関する先例を収録)では、棄権者は退席せよとあります。参議院先例集にも「ボタンを押さない者は投票しなかったとする」です。ただ衆議院の場合、棄権を胸に秘めていて退席せず起立しないという可能性は排除できません。選挙で選ばれた公職者が棄権という無関心を決め込むはいかがなものでしょうか。院の決定は出席議員で行われます。棄権するならば退席するのが筋です。 決議の場合は前述のように法的拘束力がありませんから、多少は棄権も許されるかもしれません。ただ大半の決議案は、事前に与野党が合意していて議院運営委員会がGOを出したものです。今回のケースでも当然「生活」も賛成しています。山本議員は代表なのだから、棄権ならば棄権で党の方針をまとめるのが先だったのではないでしょうか。 日本の国会議員は多くの場合、「党議拘束」といって、法案の賛否を党によってあらかじめ縛られています。それに反した場合は処分される恐れがあります。しかし「賛成せよ」の拘束があっても内心反対だという場合や、その逆という議員も当然いるでしょう。そこで苦肉の策として欠席や棄権という行動に出る場合があります。
過去にはどんな例がある?
過去の国会で注目を集めた「棄権」事例として何といっても有名なのは2005年の郵政民営化法案審議です。小泉純一郎首相(自民党総裁)念願の法案は党内にも多数の異論を抱えていました。棄権・欠席した議員は衆議院14人、参議院8人にも及び、反対を加えた結果、衆議院は通過したものの参議院で否決されました。首相はすぐさま衆議院解散を表明し、反対者は除名・離党勧告した半面、欠席・棄権には注意に止めました。 2012年の消費税増税を含む一体改革法案は与党だった民主党が野党の自民・公明両党と手を組んで成立させたので、与野党ともに反対者が多く出て、衆参両院の審議でも欠席・棄権もまたかなりいました。この混乱で民主党は分裂し、同年の総選挙で大敗します。 大半の党が党議拘束を外した1997年の臓器移植法成立の過程では共産党が拘束した上で棄権しています。
--------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】