森口将之が乗るちょっと古いクルマ、ルノー・アヴァンタイム(2002年型) 日本上陸後3ケ月で生産終了 愛するマトラがつくった最後のクルマ
ちょっと古いクルマは、まだまだ掘り出し物がたくさんありますよ!
なぜいま、ちょっと古いクルマがこれほどまでに盛り上がっているのか。走行1万キロのルノー・アヴァンタイムの中古車を2004年に買って20年間乗り続けているモータージャーナリストの森口将之さんに、その付き合い方や魅力について語ってもらった。 【写真9枚】これがマトラがつくった最後のクルマ、ルノー・アヴァンタイムの詳細画像を見る ◆ちょっと古いクルマには、掘り出し物がたくさんある 2002年型を2年後に買って、今年でちょうど20年。なので自分のアヴァンタイムの場合、気がつくとちょっと古いクルマになっていたという存在になる。 なぜここまで付き合うことになったのか。1つは生産を担当したマトラへの想いだ。かつてタルボ・マトラ・ムレーナというミドシップのスポーツカーに乗っていたぐらい、僕はこのメーカーに心酔していた。そのマトラが、アヴァンタイムを最後に自動車業界から撤退した。もう新しいマトラは出てこないので、乗り続けるしかないのだ。 とはいえミニバン・クーペという前代未聞でフォロワーもない存在なので、付き合っていけるか少し心配ではあったけれど、実際はとにかく使いやすくて乗りやすい上に、トラブルらしいトラブルはほとんどない。この実用性と信頼性は、付き合い続けるうえで大きかった。 キャビンが開放感にあふれていて、窓の大きなリビングにいながら移動できるような感覚も気に入っている。大きなルノーらしく、直進安定性やシートや乗り心地の良さは極上レベル。どこまでも走っていけそうな雰囲気もお気に入りだ。 ただし僕は文房具や家電なども、気に入ったデザインのものを選んで、それを10年以上使うことが多い。クルマに限らず、ちょっと古い道具に囲まれて暮らすというライフスタイルなのである。 もちろん大切に扱ってはいる。ゆっくり走るという意味ではない。渋滞することがわかっている場所には行かないし、ドアの開け閉めからして丁寧にする。でもしかるべき場所ではしっかり走らせる。 東京23区内在住なので、クルマを足代わりに使う必要はないし、操る歓びは2台の2輪車、ホンダ・スーパーカブとトライアンフ・ボンネビルに任せているという環境も、長く乗れている理由の1つかもしれない。 アヴァンタイム以外にも、ちょっと古い車は何台か所有してきた。昨年手放したシトロエンGSのようなヒストリックカーも経験しているし、逆にGSの前に乗っていたC4カクタス、GSのあとにやってきたトゥインゴなど、新車も何台か買っている。 ただ多くのヒストリックカーはエアコンがないのが辛いし、高温多湿という日本の気候も堪える。一方で最近のクルマは、C4カクタスやトゥインゴは例外だけれど、多くは環境対策や安全基準が厳しくなる中で、デザインもメカニズムも似たような内容に収束しつつある。 その点ちょっと古いクルマは、大きなトラブルに遭うことはほとんどないのに、最新の車種より人とクルマの距離は近いし、デザインにもメカニズムにも明確な主張が残っている。一部のクルマはとてつもなく高価になっているけれど、逆に掘り出し物もたくさん残っている。 クルマは走ってナンボ。クルマは楽しめてナンボ。この2つの要求を、絶妙な塩梅で兼ね備えている。フツーのクルマ好きにとって、やっぱり見逃せない存在だと思う。 文=森口将之 写真=神村聖 ■ルノー・アヴァンタイム(2002) ルノー・エスパスをベースとしたミニバン・クーペとして、1999年にコンセプトカーとして登場し、2年後にヨーロッパで発売。日本には2002年11月に上陸した。でもこの時点では正体不明のクルマという印象が強く、ちょっと遠目で眺めていた。ところがわずか3カ月後に生産終了を発表。独創と革新のものづくりに惹かれていたマトラが自動車業界から撤退することも決まり、もう買うしかないと決断。2004年に納車となった。東京暮らしなので公共交通で移動することが多く、他にクルマやバイクもあるので、年間走行距離は平均5000km弱。2023年4月にスターターが逝ってからは、アヴァンタイムの良さが味わえる機会を選んで乗ることが多くなった。(森口将之) (ENGINE2024年5月号)
ENGINE編集部
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