「またトラ」対応 中国メーカーの大躍進…… 2024年自動車業界10大ニュースと2025年「最も恐るべきこと」
ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。第38回となる今回は、アナリストの視点で選ぶ2024年の「自動車産業10大ニュース」と2025年の展望について。氏が示す「最も恐るべきこと」とは何か。 【画像ギャラリー】レクサスが2026年投入を目指す次世代のフラッグシップBEV「LF-ZL」(コンセプトモデル)(16枚) ※本稿は2024年12月のものです 文:中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)/写真:レクサス ほか 初出:『ベストカー』2025年1月26日号
■日本車メーカーの苦悩は2025年も続く
アナリストの視座から2024年の自動車産業10大ニュースをランキングしました。 最大のニュースは第47代米国大統領にトランプ氏が当選し、「もしトラ」から「またトラ」が現実となったことでしょう。 「またトラ」には、(1)通商政策(関税)の強化、(2)環境政策の転換、(3)規制緩和の3つのリスクが考えられます。 まったく予想ができなかった第一期目よりも、二期目のトランプ氏の政策の不確実性は後退していると感じます。確かに関税は脅威ではあるのですが、トヨタやホンダといった日本車の競争力が失われるものではないと考えます。 EV補助金を抑え、連邦排ガス規制の緩和を実施する蓋然性は高く、日本車メーカーにはプラスマイナスの両面があります。連邦規制に対してはハイブリッドを有する強みが発揮できます。 一方、ハイブリッドが含まれないカリフォルニア州が主導する州レベルのゼロエミッション車規制は別次元の課題です。 ここではEV販売を促進せねばならず、連邦と州の規制のねじれに最も苦しむのは日本車メーカーとなります。 筆者が最も恐れるのは、ロボタクシー、人工知能、ロボットなどの規制緩和にあります。 ここは予測が難しく、テスラなどの新興勢の競争力を増勢させる可能性があります。トランプ政権とイーロン・マスク氏との蜜月関係がテスラの圧倒的な競争力となれば、多大な脅威となります。 第2位は「EV需要の大失速」。2024年に入ってEVの需要は中国を除く各国で一段と停滞感を強めました。米国は1~11月累計で前年比6%増に留まり、全需に占める構成比は8.2%と前年の7.6%からのわずかな上昇に留まっています。 EVは台当たり1万ドル(150万円)を超える値引きが慢性化しています。在庫一掃を狙ったバーゲンセールの需要が含まれていますので、実態は表面的な数字以上に脆弱なのです。 そのあおりを食らったのが本格的なEV販売を始めたホンダです。年間7万台のEVを販売するのに1000億円を超える販売奨励金が生じました。EV販売を推進し、正面突破で環境規制を乗り越えようとした同社のEV戦略は見直しを余儀なくされています。 欧州においても、1~10月累計のEV販売台数は前年比1.7%減少し、市場シェアは前年同期の15.1%から14.8%に後退しました。 ところが、中国市場はEV人気が衰えていないうえに2024年はプラグインハイブリッド車(PHEV)が大飛躍し、中国乗用車に占める新エネルギー車(EV+PHEV)の構成比は46%にも達しています。 同比率は2027年までに75%に達することが市場のコンセンサスとなっているのです。 それを踏まえての第3位は「中国メーカーの大躍進」です。 日本とドイツ車のシェアは中国で急落し続け、事業が成立しないほど追い込まれています。EVでスケールを確立した中国メーカーは、圧倒的な競争力を持って世界市場に侵攻し始めています。 EUにおける中国車のEVシェアは10%に達しています。欧州委員会は中国の不当な補助金政策を理由に、中国製EVの対欧輸出に最大36%の高い相殺関税を賦課し、勢いを抑え込もうとしています。 また、BYDや長城汽車などの中国車はタイや中南米での存在を高めています。中国EVの価格は日本車ハイブリッド車よりも低く設定され、市場シェアを奪い始めています。