森永卓郎氏が看破する「103万円の壁」論争の構図 「恩恵が大きいのは消費税5%の引き下げ」「ザイム真理教と戦える野党がいないことが情けない」
闘う経済アナリスト・森永卓郎氏の連載「読んではいけない」。今回取り上げるのは、国民民主党が掲げる「103万円の壁」引き上げ案について。もし実現すれば約7兆円の税収減が見込まれるというが、そうした悲観論は“財務省のプロパガンダ”と断罪する。いま財務省との間で何が起きているのか、森永氏が解説する。
* * * 先の衆院選で自民党が大敗し、結果的に野党である立憲民主党と国民民主党の議席増に繋がった。ただし、立憲民主の比例得票数はさほど増えていない。減税策を打ち出さなかったからだ。 目下注目されているのは、国民民主党の掲げる所得控除に関する「103万円の壁」の引き上げ案だろう。過半数割れした石破茂政権は国民民主党と政策ごとの部分連合を組むほかないため、この案は飲むことになるはずだ。 だが本来、国民民主党が持ち出す交渉カードは別にあった。選挙時に掲げていたもうひとつの公約、「デフレが続く限り消費税を5%に下げる」の政策である。国民の受ける恩恵はこちらの方が明らかに大きい。 なぜこの政策を前面に出せなかったのか。それは、玉木雄一郎代表が元大蔵官僚だからだろう。消費税の減税は財務省が絶対に飲まないことがわかっている。ゆえに「103万円の壁」の引き上げという取りやすい案に傾いたのだと私は見ている。 無論、この「103万円の壁」を巡っても、財務省の反対は苛烈である。178万円への引き上げは多くのサラリーマンに恩恵があり、比較的所得の高くない人でも年間10万円ほどの減税になる。しかし、この引き上げが実現すると、結果的に地方税を含めて年間7兆円以上税収が減る。財務省は大手メディアを通じて、「国民民主党の政策で恒久的に税収減となり、日本の財政を逼迫させる」と活発に“布教活動”を行なっている。
情けないのは、国民民主党の減税案を援護できない野党
世界で最も健全と言われる日本の財政下で、7兆円程度の税収減などまったく問題にならない。財務省のプロパガンダに耳を傾けてはいけないのだが、ザイム真理教の洗脳は国会に広く及ぶ。さっそく財務省は減税対象者をパート、アルバイトなど非正規社員に限り、サラリーマンは蚊帳の外に置くべく水面下で奔走しているようだ。玉木氏の真価が問われる局面だが、不倫問題もあり、最終的には基礎控除の増額は大幅に削られる公算が大きいと考えている。 情けないのは、国民民主党の減税案を援護できない野党である。議席数を50も増やした立憲民主党の野田佳彦代表は、財務副大臣時代にザイム真理教に洗脳され、増税容認派に転じた。小川淳也幹事長に至っては2050年までに消費税を25%に引き上げる必要性に言及している。 日本維新の会では政策論議そっちのけで、創設者の橋下徹氏と馬場伸幸代表の間で内ゲバが起きた。大阪の小選挙区で全勝したものの、全国では議席減となった維新は、結局ローカル政党として生きていくしかないのだ。絶大な人気を誇る橋下氏が代表に復帰すれば一発逆転も起きようが、それがない限り尻すぼみが続き、やがては自然消滅の一途を辿る可能性が高い。 ザイム真理教と戦える野党が出てこない限り、日本の未来は暗いままである。 【プロフィール】 森永卓郎(もりなが・たくろう)/1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。近著に『身辺整理』(興陽館)『投資依存症』『書いてはいけない』(ともに三五館シンシャ)など。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。 ※週刊ポスト2024年11月29日号
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