達成と反省の繰り返し 全国男子駅伝のドラマをラジオで伝え続ける男
一柳信行さん(57)=RCC中国放送アナウンサー
全国に放送されるラジオ実況。中継所に飛び込むランナーをいかに速く、正確に伝えるかは、中継所担当アナウンサーの腕の見せどころだ。大切なのは、選手のゼッケンに書かれている都道府県番号を頭にたたき込んでおくこと。「風呂の中や通勤途中に何度も復唱する。全チームを伝えたいから」。本番前に過去のレース映像で実況練習するルーティンは、今も変わらない。 【全チーム紹介】全国男子駅伝(ひろしま男子駅伝)2025 1990年の入社1年目、身近な駅伝は、福山―広島間が舞台の中国駅伝だった。後継大会として産声を上げた男子駅伝は第1回(96年)から参加。バイク、中継所担当を経て、メーン実況を10年務めた。陸上のロードシーズンが始まる秋から中学、高校、大学生らの情報を収集。エントリー発表後には、選手ごとに持ちタイムや故障状況などをまとめた短冊をつくって、レースに備えた。 実況の現場は、達成感と反省の記憶で彩られている。第25回(2020年)、田村和希(山口)がにやっと笑って青学大の後輩吉田圭太(広島)を抜き去った場面を「青学祭り」と表現。第23回(18年)は、3年前にたすきを投げて失格となった愛知のランナーが大学生となって安芸路に戻り力走を見せたが「経緯に触れられなかったのが後悔」と思い返す。 大切にしてきたのは「縦のライン」を見せること。1人の注目選手にフォーカスしすぎてレース展開を伝えるのをおろそかにすると「ラジオを聴く人は不満がたまる」。1~10位の順位をしっかり伝えようと社内で意思統一。選手に接近できるバイク担当との連係がより重要になる。 バイク担当は地道な準備がものをいう。ペースアップなど選手の変化を100メートル単位で伝えるため、全48キロのコース地図を30枚近くに分割し、ひもで束ねたものを運転手の背中に固定。メモを取るため、裁断した画用紙に穴を開け、首から提げて使った。 ラジオならではの工夫も。沿道に植えられた桜の本数や神社に伝わる祭事…。「選手がいまどんな街を走っているのか。リスナーに対して、広島の観光案内役のつもりでも話している」という。 19日の号砲が近づく。「駅伝に携わることが誇りに思える大会であり続けてほしい」。第30章の安芸路のドラマを自らの声で全国へと届ける。
中国新聞社