令和に入って進化していた…!Mr.マリック「実は8割のマジックを作り直しました」
「手品というのはとにかく角度に弱い。」
「キテるキテる……キテます!」 Mr.マリック(75)が声を荒らげると触れてもいないスプーンの先がググッと歪(ゆが)む。刹那、パキッと先端が折れ、カラ――ン! と小気味よい音を立てて床に落ちた。テレビで何度も見てきた技だが、実際に目の当たりにしてもまったく仕掛けがわからない。ねじ切れたスプーンを訝(いぶか)しげに触るFRIDAY記者に「フフフ……」と不敵に微笑むマリックだが、近年苦心していることがあるという。 【画像】「キテます! キテます!」ハンドパワ~を披露する「Mr.マリック」 「BS朝日から4Kの番組でマジックを披露してほしいと依頼がきたんです。今まで通り『キテます! キテます!』ってマジックをやっていたら、スタッフの方が血相を変えて走ってこられてね。『見えてます! 見えてます!』って言うんですよ(笑)。手品というのはとにかく角度に弱い。従来の画質だと感じられない質感や奥行きが4Kだとわかってしまう。そのため、黒地に黒いものを重ねて隠したり、空(から)に見えて実は二重底になっていたりといった基礎的なトリックが見えてしまいます。いや~最新技術はスゴい。超魔術よりびっくりしました」 36年前に間近で見せるマジックを日本で流行らせたマリック。本来はステージの上で披露することを想定された5000種ほどのマジックをテレビ用に改良、そこからさらにテレビ用のネタを2000種ほど編み出したという。 「4Kで放送するにはその8割以上を作り直さなければならない。同じ黒い布や塗料でも光を吸収するものに変えて、奥行きをわかりにくくしたり。またある時は、背景をキラキラ光るもの変えてみたり……」 ハンドパワーが流行った当初、マジックショーを開催すれば、客席の半分が信者のように手を合わせて泣き、もう半分は暴露本を手にタネを見破ることに熱中していた。客はマリックの手元を凝視しているが、実はマジシャン側から客席を見て気付くことがあるという。 「タネ明かしをする番組では見破れそうなものを披露していましたから、収録の際、芸能人の中にはトリックがわかっていそうな方もいた。でも、わからないフリをして見てくれるんですよ。わからなくて面白い、わかって面白いで2度楽しめるのがタネ明かし番組の良いところ。たまにトリックを暴こうと、許可なく私の手や道具に手を伸ばす人もいました。不思議なことに、そういう人たちは今誰一人として芸能界に残っていない。現場の空気は悪くなるし、そんなことをしたら人柄が悪いように見えるとかまで考えが及ばないんでしょうね。この業界、マジックを見せるとその人の人となりがよくわかるなと思います」 テレビデビューした当初は、マジックの演出である″超魔術″や″ハンドパワー″を本当の超能力だと勘違いする客も多く、マリックのもとには「金の鉱脈を見つけてくれ」「お寺をあげるから教祖になってくれ」、挙げ句の果てには風呂敷に包んだ大金を突きつけ、「ある人物の胃袋の中に青酸カリを瞬間移動させてくれ」など常軌を逸した依頼も来たという。近年、激辛料理を超魔術で乗り越えられるか、など仕事でも一風変わった企画が増えたが、マリックはそれらに快く応じている。 「いや~私、もうバラエティってよくわからないんです(笑)。まだ私のことをマジシャンではなく超能力者だと信じている人が一定数いた頃、『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)で『ナインティナイン』の岡村隆史(54)さん扮する超能力者と対決もしました。また、『浅草橋ヤング用品店』(テレビ東京系)では、当時50歳を過ぎていたのにチアガールの格好をしましたよ。演歌歌手の格好もしましたし、本当になんでもやっていました。ただ、そういった要望に応えたことで、ミステリアスな空気感が無くなって、見る人の夢を壊してしまった。仕事は選ばないといけないなって気付きました」 ’90年に元マネージャーがFRIDAYに″超魔術″が手品だったと暴露したことを発端に「ペテン師」「インチキ」とバッシングされた時期もあったという。本人としては、当時、肩の荷が下りた気持ちだったというが、心身の疲労により顔面が麻痺してしまった。キャラが崩壊しかけていたこともあり、休養中は、どういった形で再び人前に出ればよいのかわからなくなったそうだ。 「’97年には元日本テレビのプロデューサー、五味一男さん(68)が、『手力(てぢから)』を使う謎の郵便局員『栗間太澄(くりまたすみ)』というキャラクターを作って番組に呼んでくれて、心機一転、またマジックを披露する機会に恵まれました。ただ、その後に五味さんが手掛けた『エンタの神様』(日本テレビ系)がめちゃくちゃキツかった~。毎週、五味さんが『来週、針と糸を瓶の中にいれて、振ったら針の穴に通ってる映像を撮るから』『川に棒をかざしたらその上を魚が飛ぶんだ』ってイメージスケッチを渡してくるので、その映像を撮るための仕掛けを考えていました。タネができても、冷たい川に入るロケをしなきゃいけないし、しかもあっさりカットされることもありました(笑)。でも〆切りがあると人間なんとかなる。超魔術の一番の秘訣は〆切りといっても過言ではないですね」 ◆本物の超能力者はいる! ″超魔術師″はマジックを盛り上げるための演出だが、マリック曰(いわ)く、「この世には本物の超能力者がいる」という。 「今まで7000種以上のマジックを習得してきた私だからこそ、マジックで可能なことなのか不可能なことなのか見分けられると思うんです。この30年ですごい超能力が見られると聞いては中国やドイツ、インドなどへ行きましたが、そのほとんどが手品か催眠術。中国では国認定の超能力者がいて、迎賓館でその技を見せてもらったんですが、どう見ても仕掛けがある(笑)。ただ、嘘だとバレるとその人は死刑になるだろうから『すごい能力ですね』って拍手しました」 力ずくでスプーンを曲げて見せる者や、あらかじめ仕込んであったであろうキャンディを壁にかかった絵画の裏から出して瞬間移動と言い張る者など、出てくるのはタネも仕掛けもある自称超能力者ばかり。しかし数年前、本物らしき人物に出会ったという。 「中国出身の方で、今日本に住んでいる女性です。私の推薦で’08年には一度テレビにも出ていただきました。文字を書いた紙を折り曲げてガラスに張り付け、何が書いてあるか透視するんです。紙などもこちらで用意して、座る位置などもこちらから提示する。ただ紙を見てジッと待っているだけ。4時間も待ちましたけど、ピタリと言い当てた。シンプルだからこそインチキしようがないんです」 今や日本マジック界の重鎮となったマリックだが、今でも番組のオファーが来ると、収録までに何かまったく新しいことができないか考えているという。 「人間、できると思いこめば不思議なことを起こせるんですよ。それを伝えたくて、マジックショーに来たお客さんには全員にスプーンを渡して、必ずスプーン曲げを伝授しています。″一億総マジシャン計画″ですね」 サングラス越しで見えずとも、手品について熱弁をふるうマリックの目は子供のように煌めいていただろう。 『FRIDAY』2024年12月13・20日合併号より 取材・文:富士山博鶴
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