安保法案に見る中央と地方の「ねじれ」の意味 地方議会で相次ぐ反対意見書
地方の「いら立ち」の表れか
国会への意見書提出は、地方自治法第99条で定められた地方議会の権利です。ただし、受け取った国会がどう扱うかには定めがありません。 安保法案で衆議院に届けられた意見書356件のうち、305件が衆院議長に受理され、法案を審議した特別委員会に「参考送付」されました。参考なのでそれに対して意見が交わされるわけではありません。また、これから審議が始まる参議院にも意見書は届けられているものの、こちらは「安保法案関連として取りまとめているわけではありません。受理、参考送付もしますが、他の意見書とまとめての扱い」(参院議事部)だそうです。 政策過程論などを専門にする愛知学院大学総合政策学部の森正教授は「意見書に法的拘束力はなく、国会議員がどれだけ影響力を受けるかというと疑問です。1980年代の売上税や消費税などの内政的な問題だったら選挙の争点になり、国政にも大きな影響を与えたかもしれませんが、地方に直接的な利害をもたらさない外交や憲法問題ではどうか。どちらにしても非常に珍しいケースだとは言えるでしょう」とした上で、今回の動きを自民党の「中央集権化」と合わせて見ます。 「自民党の意思決定はもともと地方の意見を積み上げるボトムアップ型でした。しかし、90年代の政治改革で小選挙区制となり、政策の中身がマニフェストで全国一律になるなど、中央による『しばり』がきつくなりました。党本部が決めたことに地方から異議申立てがしづらくなり、異論が封じられてしまう。そうした中央集権化、トップダウン型の意思決定が安倍一極体制で加速し、首相周辺が突っ走ってしまうという構図が出来上がったのでしょう」
そして逆に、この党体制への反動が今回の意見書提出の流れに表れていると森教授は指摘します。 「自民党の地方組織がいら立ち、異議申立てせざるを得なくなったのでしょう。これは昨今の地方政党の動きにも通じるところがあります。特に実質、小選挙区制の都道府県議会より、まだ『しばり』の少ない市町村議会ではそれが顕著。ただ、意見書も法的拘束力がなければ、単なる有権者に対するポーズで終わってしまいます」 では、地方の声をより有効に中央へ届けるにはどうすればいいのでしょうか。森教授は「やや論議が飛躍するかもしれませんが」と前置きした上で、「参議院の役割」に注目します。 「参議院の制度改革議論でも出てきていますが、衆議院に対して独自性のない今の参議院を『地方代表』として捉え直すことが必要でしょう。連邦制のドイツでは、国会議員で構成する連邦議会が国民代表であるのに対して、各州の代表者による連邦参議院は地方代表と位置づけられています。日本もこうした形になれば、地方の声を直接、中央に届けることができます。ただ、そのためには現行の憲法の枠組みではできないので、憲法改正が必要になりますが…」と森教授。 これから参議院の審議が衆議院より深まらなければ、地方の失望は逆に深まるでしょう。安保法案では、こうした「国のかたち」も問われていると言えそうです。 (関口威人/Newzdrive)