事実婚、同性婚で残された側はどうすれば? まだまだ戸籍の力が強い日本。遺言書では不十分?
『あなたが独りで倒れて困ること30』 #2
老後や死に対する備えというのはなかなか気が進まないもの。しかし多くの訴訟やトラブルを見てきた司法書士の太田垣章子さんは「その結婚の形態のままでは危険!」と警鐘を鳴らす。 【関連書籍】『あなたが独りで倒れて困ること30』
『あなたが独りで倒れて困ること30(ポプラ社)』より、事実婚における備え方を紹介。
事実婚の場合、どちらかに何かあるとどんなデメリットが考えられますか?
離婚・再婚・ステップファミリー・事実婚、同性婚......。さまざまな形があり、家族の関係も、昭和の時代に比べれば多様化したと思います。 そんな中、最近は事実婚を選ぶ方も増えました。選択肢が増え、「ねばならない」という呪縛から解き放たれ、とても良いことだと個人的には思っています。 ただこの事実婚、人生の晩年に関しては、良いことばかりではありません。なぜなら事実婚は、法律上の家族・親族ではないからです。 事実婚をしている有名な女優さんが「遺言書で備えておけば何の問題もない!」と記事の中で語っていました。記事を読んでいて、掲載する前に、「正しい知識を持った人がチェックして欲しい......」思わずそう呟いてしまいました。 遺言書は、財産の分配の仕方を記載しておくものです。事実婚の場合、配偶者ではないので、相続権がありません。つまり遺産をもらう権利がないのです。その点に関しては、遺言書で「遺贈する」ということを残しておけば事実婚のパートナーにも財産を渡すことはできます。 ただし相続と遺贈では、かかる税金が違ってきます。家族だからこそ、相続の税金は他のものより低いのです。でも苦楽を共にしながら生活をしていると、問題は亡くなった後の財産の分配だけではない、ということはもうお分かりですよね? 繰り返しになりますが、日本では(今後、法制度が変わらざるを得ないかもしれませんが)、家族・親族以外には、何の権限もありません。だから当然、事実婚のパートナーには、何の権限もないことになります。たかが戸籍、されど戸籍なのです。
まだまだ「戸籍の力」が強い今の日本。老後のあれこれはきちんと形にしておくべき
たとえば二人で一緒にいる時に、突然片方が倒れたとしましょう。本人は意識がない状態です。病院がここから家族を探したりコンタクトを取ったりするのは、とても大変です。 そのために事実婚であるパートナーに話を伝えたり、聞いたりはしてくれるところも増えました。だって目の前に「親族に近い人」がいるのだから、みすみす他人扱いしてしまうのはもったいない。ただ医療の判断を委ねてまでくれることは、難しいかもしれません。 また全ての医療機関等が受け入れてくれる体制とは、まだまだいえません。 住民票が別々の場合には、まったくの他人と扱われる可能性が大です。最終的に事実婚は家族とは認められず、蚊帳の外という可能性もあり得ます。この先変わっていくかもしれませんが、現段階では籍の重みを認識しておいた方が良さそうです。 それが分かっていれば、備えておけばいいだけ。代理権契約や任意後見、死後事務委任の締結を、第三者である事実婚のパートナーとしておけば良いのです。加えて財産に関する遺言書があれば、税金のことはさておき、ほぼ家族と同じことになりますね。 でもこの手間を踏んでおかないと「家族ではない」という理由で、いろいろなこ とで排除される可能性があることも把握しておく必要があります。 残念ながら〇〇家の墓にも、一緒には入れません。そもそも墓には入らない(散骨等)という方には問題がないのでしょうが、じっくり考えていくといろいろあります。 片方が病気や認知症等で判断能力がなくなってしまえば、もはや入籍(結婚)することもできません。 事実婚を選択している方は、その理由や対処法、今後入籍する可能性があるならそのタイミング等もしっかり話し合っておきましょう。 文/太田垣 章子 写真/shutterstock ---------- 太田垣 章子(おおたがき あやこ) OAG司法書士法人 代表司法書士。30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2600件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。現在は後見だけでなく高齢者サポート事業にも従事している。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)、共著に『家族に頼らないおひとりさまの終活』(ビジネス教育出版社)がある。 ----------