積みあがるウズラの卵 事故響き扱い減 新たな食べ方PRも
消費回復は道遠く 苦境にあえぐ生産者
「ウズラの卵の在庫が積み上がっている」。生産量全国トップの産地を抱える愛知県で、本紙「農家の特報班」はそんな情報をキャッチした。背景にあるのは2月に福岡県で起きた事故。給食に出たウズラ卵を喉に詰まらせた児童が死亡した影響で、学校給食だけでなく、スーパーでも扱いが減少。生産者は苦境にあえぐ。記者が実態を探った。 【画像】消費拡大へ県がPRする「うずら卵のピクルス」 「今の在庫量はコロナ禍で給食が止まった時に次ぐ多さだ」。給食用にウズラ卵を扱う名古屋市の食品メーカー、天狗缶詰の担当者は記者の取材にそう答えた。6月末時点の在庫量は前年同期の1・76倍という。 2月の事故後、ウズラ卵の使用見合わせは「全国の学校給食に及んでいる」と担当者は明かす。8月は給食がなくなる夏休みも重なり、さらに、在庫量がかさむことを懸念する。 ウズラ卵敬遠の動きはスーパーにも広がる。記者が取材した東海地方のスーパーによると、2月の事故以降、ウズラ卵の販売量は落ち込み、「来店客に購入を敬遠する動きがあった」と担当者。現在は回復傾向にはあるが、「事故前の水準に戻っていない」という。 記者は全国トップのウズラ卵産地、豊橋市の生産者にも話を聞くことができた。 「しばらく出荷量を調整してもらえないか。支払いも待ってほしい」。その生産者は、スーパーにウズラ卵を卸す食品加工業者に、そう頼まれたという。 「学校給食での事故後、スーパーも販売量が減っていて、在庫がはけていかない」 記者が取材した愛知県豊橋市のウズラ卵生産者は、出荷先の食品加工業者に、そんな説明を受けた。連絡が来たのは6月。以来、卵の出荷量を一時的に減らすなどの対応を続ける。 一方、飼料代や燃油価格などの飼養コストは「少なくとも5年前と比べて2倍に増えている」と生産者。「少しでも販売収入を確保したいが非常に厳しい状況。消費が上向かないと事態は改善しない。打撃は大きくなるばかりだ」と先の見えない状況に頭を抱える。 食用にウズラ卵を扱う名古屋市の食品メーカー、天狗缶詰も状況は同じだ。主に愛知県産のウズラ卵を扱うが、「在庫状況が危機的な状況になることを懸念しており、契約した数量以上の受け入れは難しい」と打ち明ける。 ウズラ卵の販売環境は依然として厳しい状況にあるが、同県内では少しずつだが回復の兆しが見えてきた。 2月の事故後、県内でも学校給食での使用を止める動きが広がったが、新学期に入ると再開するところが出てきた。県教育委員会は「2学期のスタートに合わせて再開するところもある」(保健体育課)と話す。 ウズラ卵は、よくかんで食べるよう周知を――。県教委は2月の事故後、各市町村の教委に対し、学校給食の現場でそう伝えるよう促してきた。「よくかむという食事の基本を守れば、安全に食べることができる」(同課)として、ウズラ卵の使用再開を後押しした。 スーパーなど小売りの現場でも「学校給食での再開と連動して、水煮などの消費が回復しつつある」(県養鶏協会)。 学校給食での使用を止めている愛知県外の市町村教委の担当者は「安全性を考えながら判断する」として、2学期が始まる9月以降も再開するかどうかは未定だとした。記者が取材したところ、そうした対応を続ける教委は複数あった。
主産地の愛知県PRに力 レシピも発信
依然として使用を控える動きが残る中、同県は全国へのウズラ卵のPRに力を入れる。7月の大相撲名古屋場所で優勝した横綱照ノ富士に県知事賞の副賞として、ウズラ卵1万個を贈呈。さらに交流サイト(SNS)上で、栄養価や料理のレシピを発信。県は「さまざまな機会を生かし、ウズラ卵の魅力を伝えたい」(畜産課)と考える。 ウズラ卵の産地を抱える豊橋市も、豊橋市養鶏農業協同組合と豊橋養鶉農業協同組合、JA豊橋と連名で、市内の飲食店にウズラの卵の利用を呼びかけるちらしを配布。「ウズラ卵を使う飲食店も出始めた」(農業支援課)として、引き続き需要喚起に努める方針だ。 (中村元則)
日本農業新聞