『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2で切り開いた新たな道 ライアン・コンダルが語る
オープニングシークエンスの変化に隠された秘密とは?
――オープニングシークエンスが、シーズン1では血流を表していたのに対し、シーズン2では刺繍のタペストリーに変わりました。どんな意図が込められているのでしょうか? コンダル:シーズン1はこの家系図を確立するシーズンなので、オープニングシークエンスも、この家系をダイナミックで興味深いビジュアルで確立したいと考えていました。シーズン1では、この一族の何世代にもわたる歴史が描かれたので、オープニングシークエンスで家系図を用いて血筋を描くことが適切な始め方だと思いました。それが一段落し定着したシーズン2では、私たちが今経験している“生きている歴史”のひとつに見えるように、ターガリエンをここに加えたのです。中世のタペストリーが歴史を記録し、後世に物語を伝える方法となっていることに、私はいつもとても魅力を感じていました。特に、中世の何百ヤードも続くような家系図のタペストリーが大好きでした。中世の歴史や文化について私たちが当然のように知っていることの多くは、明らかに当時作られたタペストリーの歴史的分析から引き出されたものだからです。タペストリーは、歴史を視覚的に記録する興味深い方法だったのです。タペストリーが縫われていく様子は、このシリーズの登場人物たちが、歴史の中で非常に重要な時代を生きていると知っていただくためです。歴史が展開するにつれて、このタペストリーの中で永久に縫い継がれていくのです。 ――『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、原作の『炎と血』では描かれない登場人物やシチュエーションの空白を埋めることになります。苦労されたのはどんな点ですか? コンダル:これはかなり厄介な脚色作業です。原作は、ジョージが言うところの擬似歴史書ですから。デヴィッド(・ベニオフ/『ゲーム・オブ・スローンズ』ショーランナー)とダン(・ブレット・ワイス/共同ショーランナー)が『ゲーム・オブ・スローンズ』を作った際に参照したような膨大なページ数のプロットはありません。実際、それが彼らが直面した課題でした。つまり、1シーズン10話でどう物語を語り、さらに物語を動かし続けるために原作から何を削るのか?という。私たちにとっては、どこを作り上げ、どの部分を工夫し、史実と原作の物語に忠実であり続けるにはどうすればいいのか、という課題です。最初の2シーズンを通して描く物語は、『炎と血』においては60ページほどしかありません。そのためには、A地点からC地点への道のりを説明し、その途中にあるB地点を描くには、膨大な量の創作が必要です。そして、このドラマシリーズの面白いところは、たくさんの「なぜ?」と「なぜそうなったか?」を語れることだと思います。『炎と血』が輪郭を示し、なにがこうなって、ああなるのか。私たちはそれらの余白をドラマ化し、歴史書には決して載らないような宮廷の陰謀や、影で交わされる会話をすべて見せることができました。願わくば、文字で書かれた歴史に完全なる三次元性をもたらしたいのです。
平井伊都子