オリエント・エクスプレス、2025年春に運行再開…「豪華な体験」の需要が増加(海外)
よみがえる高級列車
140年前にベルギー人の実業家ジョルジュ・ナゲルマケールス(Georges Nagelmackers)によって創設され、1883年に運行を開始したオリエント・エクスプレスは、最盛期にはパリからイスタンブールまで運行していた高級寝台列車だ。 このブランドは大衆文化に深く浸透し、アガサ・クリスティの小説『オリエント急行の殺人』(邦訳:早川書店)の舞台となった。近年では、ジュディ・デンチとケネス・ブラナーが共演したハリウッド映画版『オリエント急行殺人事件』も制作されている。 やがて、のんびりとした列車の旅の魅力は、飛行機や高速鉄道など、よりスピーディーな移動手段に取って代わられ、それに伴って、オリエント・エクスプレスの黄金時代は終わりを告げた。1977年にパリとイスタンブール間の運行を終了し、その後は、1980年代初頭に規模を縮小して短期間の復活を遂げたのみだった。 それ以降、つい最近まで、オリエント・エクスプレスはほぼその歴史に幕を下ろした状態だった。 オリエント・エクスプレスは現在、イタリアの高級ホスピタリティ企業アルセナーレ・グループ(Arsenale Group)との提携によって、復活を遂げようとしている。イタリア国内に2つの新しいホテルを開業し、豪華寝台列車「ラ・ドルチェ・ヴィータ(La Dolce Vita)」6本を新たに運行する。 2025年春から、最大62人の乗客を収容できるデラックスキャビンおよびスイートキャビンを備えたラ・ドルチェ・ヴィータが、シチリア島を含むイタリアの14地域をめぐる、1万マイル(約1万6000キロ)の路線を走行する(シチリア島までは、列車ごとフェリーに乗る)。 デラックスキャビンのチケット料金は、1泊3500ユーロ(約57万円)からとなっている。
プライバシーという贅沢
消費者が、高級品より旅行体験を好むようになっている今、オリエント・エクスプレスの運行開始はぴったりなタイミングと言える。現在は、体験型旅行のトレンドが高まっており、ラ・ドルチェ・ヴィータのゼネラルマネージャーを務めるサミー・ガチェム(Samy Ghachem)は、こうした旅を「スロー・クルージング」と呼んでいる。 「パンデミックが落ち着くと、すぐさま人気が拡大した。日本は爆発的に支持され、人々は、『よし、今こそ、自分の安全地帯から踏み出そう。アジアへ行こう、アフリカへ行こう、何かを始めよう』という感じだった」とガチェムは述べる。そうした好奇心と、のんびり過ごしたい欲求をくすぐるのが、ラ・ドルチェ・ヴィータなのだという。 豪華列車の旅は、クルーズ旅行よりも独占性が高く、それも富裕層に好まれる点だ。 高級旅行代理店のクラフトは、「人々は、贅沢な空間とプライバシーを求めている」と指摘する。 「列に並んで待たされたり、周りに何千人もいるところで写真を撮られたりすることを望んでいない」 ガチェムも、「豪華クルーズの場合は、約1万人もの乗客がいる。当社の列車は、はるかに親密な空間を提供する」と述べている。 オリエント・エクスプレスは、当面は主にイタリアでの運行に注力するが、2026年に同社は、「オリエント・エクスプレス」の名前を冠した初のスーパーヨットの就航や、中東を含む他地域での豪華寝台列車の運行も計画している。 オリエント・エクスプレスの復活が何かを裏づけているとすれば、それは、「人々は休暇から戻ったときに、何かしらの物語を持ち帰りたいと思っている」ことだろう。それこそが、高級旅行における最大のトレンドの一つだ、とガチェムは述べている。
Maria Noyen