平野美宇か、伊藤美誠か。卓球パリ五輪代表争い最終ラウンド。平野が逃げ切る決め手、伊藤の逆転への条件は?
一方で、平野には…。試練といえる正念場
一方で、平野には、思いもよらない「負け方」もある。 全農CUP大阪大会でも、準々決勝で長﨑美柚(選考ポイント354pt/4位)に0-4であっさりと敗れている。その後の5位・6位決定戦でも大藤沙月(選考ポイント226pt/8位)に3-4で競り負けている。これが平野の“恐さ”でもある。 爆発力では中国選手にも引けを取らず、大物食いの可能性が大きい一方で、格下の選手に絶対的に勝ってくれるような安心感が増せば、平野の“新ハリケーン”はさらに頼もしさと凄味を増すだろう。 パリ五輪代表が確定となる全日本選手権では、「大物食い」よりも「取りこぼしのなさ」が問われる。 平野自身、全農CUP大阪大会の大会後のインタビューでは「全日本は、何も懸かっていない時と、オリンピックの代表権などが懸かっている時では、まるで違うもの」と語っている。この言葉からも“最終ラウンド”を戦う覚悟が垣間見られる。 まさに、平野にとって試練といえる、正念場になりそうだ。
伊藤美誠の大逆転はあるか? 「逆境」と言える今の状況が…
伊藤美誠は、今シーズン、平野美宇に対してどうも分が悪い。 それでも、7月22日の全農CUP東京大会での直接対決では、4-3で伊藤が勝っている。特に7ゲーム目は、本来の伊藤の勝負強さを象徴するようなシーンもあった。 8-9と平野がリードの場面。サーブは伊藤。立ち位置をフォア側へ変え、何度も平野の位置を確認し、縦横回転系の巻き込みサーブで決めようとするが、平野は冷静にフォアハンドのハーフボレーのようなレシーブ。これを伊藤が表ラバーを貼っているバック側へ返球。表ラバーに、ドライブがかかっていないナックル性のハーフボレーを“つかみ”切れなかったか、伊藤はネットに落としてしまう。8―10。そんな状況からでも、またサーブを出す位置を変え、レシーブは表ラバーのツッツキを入れて、逆転勝ちを決めた。 こういうプレーが、今もできるのだ。 ただ、近年、勝負への執念のようなものがあまり感じられなくなってもいる。これは仕方がないことだろう。幼少期から上だけを見て戦ってきた。東京五輪では、水谷隼とのペアで、混合ダブルスでの悲願の金メダル奪取まで上り詰めた。そう、これまで伊藤は、休むことなくどこまでも高みを目指して血の滲む努力を続けてきた。一人の人間が、何年もの間ずっと張り詰めた状態でいられるわけがない。 現在は極端にモチベーションが落ちているようなことはないだろう。だが、すでにどこか達観したような領域に入っているのではないだろうか。 もしそうであれば、この「逆境」と言える今の状況が、伊藤の「執念」という闘志に火をつける、キッカケの一つにならないか。 長い代表権争いの試合続きで、疲労もピークに達しているはず。それでも、年明けの全日本選手権ですべてが決まる。それを思えば、眠れる爆発力がここで目覚める可能性はまだ残されているはずだ。