中3の選択、親元離れ南三陸の震災被災地へ 地域留学制度活用、地元高が来春入学生募集
都道府県の枠を超えて地方の公立高に入学できる「地域みらい留学」制度を導入している宮城県南三陸町の南三陸高が来年度入学生の募集を始めた。制度は島根県・隠岐諸島の成功例を基に2018年度から始まり、主に生徒数が減少傾向の中山間地域や離島の高校で導入され、今年10月時点で145校が対象。中学生の新たな選択肢として注目を集めている。(共同通信=堀内菜摘) 南三陸町は2011年に東日本大震災の津波で大きな被害が出た。南三陸高の制度導入は生徒の減少による統廃合の回避が目的だった。「南三陸kizuna留学生」と銘打ち、2023年度に5人、2024年度に10人が入学。地域ぐるみで生徒の育成を図るカリキュラムの特色に人気があり、来年度は12人を募集する。 山形県鶴岡市出身の2年伊藤芽衣さん(17)は1期生。高校進学を機に親元を離れて寮生活をしながら通学し、「学校に行かないとつながれない人や知れない町のことがある」と南三陸高に通う魅力を語る。
中学時代の多くは「学校に行く理由が見つからない」と不登校だった。南三陸高を目指したのは周囲の勧めで参加した中3の修学旅行がきっかけ。震災から立ち上がった南三陸町を訪れ「住民の元気さ」に魅せられた。 南三陸高の授業は町内のフィールドワークが多いのも特徴。中でも伊藤さんは震災の伝承に力を入れる。津波で町職員ら43人が犠牲になった旧防災対策庁舎の前で7月中旬、同級生と初めてガイドを務めた。 「東日本大震災の話を通して、命を守る方法を知ってほしい」と来訪者に語りかけ、台湾から訪れていた同い年の男子高校生(17)は「台湾も地震が多い。災害を考え直すきっかけになった」と感謝していた。 震災発生時、伊藤さんは3歳。当時の様子は語り部や資料から学んでいる。経験談は話せないが、移り住んで復興の歩みを日々目にしながら「私も南三陸の未来をつくる一人になりたい」と将来を見据える。 佐藤仁町長は入試の面接を自ら担当し、生徒の身元引受人も務めている。生徒の活動を通じ「震災伝承の一翼を担ってくれてありがたい」と制度導入の手応えを感じており、来春も多くの生徒の入学に期待を寄せる。募集期間は11月29日まで。