視聴率2強「日テレ」「テレ朝」の明暗、「フジ」の苦境は鮮明に…「民放在京キー局」23年度決算を読む
大差が付く日テレとテレ朝
コアが強い日テレ、弱いテレ朝。CM売上高はどうなるのか。以下、その結果で、丸数字は順位である。なお、「TVerが新たに売上高の柱になった」などと大きな誤解をしている向きもあるので、その数字も記したい。各局の番組制作費も付記する。 ■日本テレビ CM売上高 約2192億円(前年度比マイナス約124億円)(1) TVer等配信広告の売上高 約68億円 制作費約 893億円 ■テレビ朝日 CM売上高 約1668億円(同マイナス約50億円)(2) TVerなどデジタル広告約58億円 制作費約791億円 ■TBS CM売上高 約1593億円(同マイナス約35億円)(3) 配信広告 約35億円 制作費約 937億円 ■フジテレビ CM売上高 約1473億円(同マイナス130億円)(4) 配信広告 約78億円 制作費 約682億円 個人視聴率はほぼ変わらない日テレとテレ朝だが、CM売上高では大差が付く。コアの違いからにほかならない。 なぜ、コアの数値が高い民放、番組が人気になるのかというと、CMを出す意欲の高いスポンサーの上位には、40代までをメーンターゲットとする業種が並んでいるからだ。レジャーなどのサービス産業や通信・ゲーム業、クレジットカードなどを発行する金融業などである。 「今の時代、視聴率はもう関係ない」とする向きもあるが、それは事実と懸け離れている。確かに番組の質と視聴率は一致するとは限らない。観る側にも視聴率はあまり関係ない。しかし、番組の視聴率を上げ、CM枠をなるべく高く売るというのが民放のビジネスモデルなのだ。 だから、民放には視聴率が永遠に付いてまわる。世界中の民放がそうなのだ。また、「視聴率はもう関係ない」という論調は、視聴率下位局の仕掛けたプロパガンダのこともあるので要注意である。
民放は楽観論すぎる
各局のTVerの広告売上高は急伸しているものの、これもCM売上高の20~40分の1に過ぎない。番組の制作費はCMのスポンサーが出しているため、TVerの広告料金は高く設定できないのだ。再放送番組と似た扱いなのである。収益の柱になるはずがない。 一方、TBSは「アジア大会 中国・杭州」(2023年9月24 ~10月8日)放送の出費があったので例外だが、CM売上高と制作費はほぼ比例する。 CM売上高が落ち、制作費が下がると、人気者や大物を番組に起用しにくくなる。番組で使うセットやCGにも費用を掛けにくい。すると、番組のクオリティの維持が難しくなり、ますます視聴率が獲りにくくなる。負の連鎖に陥りかねない。 制作費が一番低いフジの場合、平日の午後1 時50分から同3時45分をドラマの再放送枠としているが、これも制作費軽減のためというのが民放界の共通認識。確かに制作費は大幅に軽減できるものの、TVerと同じでCM枠を高くできないのから売上高も伸びない。 フジは「めざましテレビ」(月~金曜午前5時25分)などのある平日の午前帯は堅調だが、「ぽかぽか」(同正午)はほぼ1%台の個人、ほぼ1%割れのコアが1年以上も継続している。プライム帯もバラエティのヒット番組が乏しい。苦境が続いている。 ドラマはどうだろう。2023年度の個人視聴率ベスト5を見てみたい。 (1)TBS「VIVANT」(9月17日)個人12.9%、コア10.1% (2)日本テレビ「24時間テレビ スペシャルドラマ『虹色のチョーク 知的障がい者と歩んだ町工場のキセキ』」(8月26日)個人8.1%、コア6.1% (3)TBS「ラストマン-全盲の捜査官-」(4月23日)個人7.8%、コア5.5% (4)TBS「TOKYO MER~隅田川ミッション~」(4月16日)個人7.8、コア4.9% (5)テレビ朝日「相棒22」(3月13日)個人7.6%、コア2.9% ※連続ドラマは最高値 TBS作品が3本も入っている。同局のプライム帯のコア2位を支えている。フジも「風間公親-教場0-」(2023年4月10日)が個人7.2%、コア4.0%で6位に入り、気を吐いている。 「VIVANT」や「TOKYO MER」、「教場0」は目新しく、手間の掛かったドラマだった。一方、今は記憶喪失ドラマがプライム帯に5本もある。少し前に多かったタイムリープ作品より美術費などが掛からないことも理由の1つではないか。視聴者を侮りすぎだろう。 現在、民放のプライム帯にはドラマが16作品ある。有料動画配信で再利用できるだろうと考え、増やした。各局はその売上高でCM売り上げの減少分を埋めようとしている。 しかし、1本平均3000万円でつくり、おまけに企画も脆弱な民放のドラマが、1本に1億円数千万円かける「忍びの国」や米国作品「クイーン・オブ・ザ・サウス ~女王への階段」(ともにNetflix)に勝てるのか。 一部俳優たちはギャラが高く、制作日数にも余裕のある動画に軸足を移しつつある。黒船が襲来しているというのに民放は楽観的過ぎる。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
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