日本からコメが消える? 「令和の米騒動」は文化の非常事態を表している
スーパーの店頭からコメが姿を消す──日本人にとっての主食であったコメが、どうして品薄という事態になってしまったのか? 日本在住25年の英国人大学教授フィリップ・パトリックが「日本とコメ」を考える。 【画像】若者は、きつくて見栄えのしない農業に興味を示さなくなっている 日本はコメ不足に見舞われている。コメの在庫はここ数十年で最低で、6月のコメの民間在庫量は1999年以降最小の156万トン(前年比2割減)、コメの価格は過去30年で最高値をつけた。 コメ不足を招いたのは、高温と水不足という今夏の不順な天候による収量減少が一因だが、それだけではない。以前なら、「今年はたまたま不作だった」で済んでいたかもしれないが、いまや日本の稲作農業そのものが疲弊しているのだ。 日本の稲作農家は高齢化が進み、耕作放棄地となる水田もますます増えている。毎日新聞が実施したアンケート調査によれば、全国107の自治体で全水田の40%が管理されていないか、規模が縮小されたという。同紙は早稲田大学名誉教授で、コメ農家の全国組織の顧問を務める中島峰広の発言を引用し、「1970年以降、伝統的な棚田のほぼ半分が失われた」と書いている。 若者も、きつくて見栄えのしない農業に興味を示さなくなっている。過疎が進む農村部はこれといってやることもない。私は日本在住25年になるが、就農希望者に会ったことがない。私が会う若い人はだいたい、安定してそれなりの年金がもらえる公務員か、ユーチューバー志望だ。 農業は、失われた技術になりつつある。加えて日本には、新規就農者を描いたイギリスのリアリティ番組『ジェレミー・クラークソン 農家になる』のような、農業をPRして盛り上げる番組の東洋版もない。だから、菅義偉前首相が国会で「私は農家の長男だった」と発言し、農家に生まれた出自について語っていたのは印象的だった。 その発言を聞いて、どこか職人気質の父親のような、古めかしいが地に足のついた実直な発言だと感じた人もいれば、菅は田舎者じみて野暮ったいと感じる人もいた。