世界で初めて「健康診断」「禁煙運動」を導入した国が犯した「衝撃の史実」
クローン人間はNG? 私の命、売れますか? あなたは飼い犬より自由? 価値観が移り変わる激動の時代だからこそ、いま、私たちの「当たり前」を根本から問い直すことが求められています。 【写真】初めて「健康診断」「禁煙運動」を導入した国が犯した「衝撃の史実」 法哲学者・住吉雅美さんが、常識を揺さぶる「答えのない問い」について、ユーモアを交えながら考えます。 ※本記事は住吉雅美『あぶない法哲学』(講談社現代新書)から抜粋・編集したものです。
気持ち悪い健康増進法
法と道徳は、十戒に見られるように内容的に重なるところもある(殺すな、盗むな、など)。しかし、特定の道徳を法によって人々に強制するとなったらいかがなものだろうか。 日本にも「余計なお世話法」といえるものがある。健康増進法である。 その第2条では、「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない」と命じている。 こんな風に、人に特定の生き方を命令する法律はどうも虫が好かない。どう生きようと個人の勝手である。 また、その人の職業、また人生の目的によっては、健康の増進に努められない場合もある。 日本のサラリーマンの多くはストレスで胃を痛め血圧が高まり、運動不足と不規則な飲食で血糖値や尿酸値も上がっている。素晴らしい作品を生み出すために酒と煙草で身体を壊すアーティストもいる。 プロボクサーはつねに頭部の負傷や脳障害の危険に晒されている。新記録を目指すアスリートは、その代償に必ず身体のどこかを酷使して痛めている。 その一方でメディアは老いゆく人々に老け込むな、薬や栄養剤を飲んで走れと煽っている。 しかし、そもそも生きてゆくこと自体死に近づくことなのだから、健康に反しているのである。完璧に健康でいたいなら何もしなければよい、というか生きるのを止めればよい。
健康管理に積極的だったナチス
こういう法律ができる理由は想像がつく。高齢社会で公的医療保険の負担がこれ以上増えたら困るから、みんな病気にならないようにしなさい、ということだろう。 国民は自分たちのためにではなく、国家の社会保障のために健康になるよう求められているのだ。 しかし政府広報でなく、わざわざ法律の形をとって人の生き方を指示するやり方に気味の悪さを感じる。もしかしたら将来、健康管理をしない人に対して何らかの制裁規定を追加しようと企んでいるのかも……。 ちなみに、健康診断や癌検診、禁煙運動をはじめて導入したのはナチスである。それは個人のためではなく、総統やお国のために労働力として使える人間を選び出して健康に保つためであった。 健康帝国とは結局、企業や国家のために使える人間を育て維持するためのものなのである。だから、ナチスは8時間睡眠や菜食を国民に奨励していた。 しかし、そんな健康帝国もその裏側では、アルコール依存者、同性愛者、精神障がい者を迫害し、病などで労働力として役立たなくなった人間をさっさと安楽死させていた。 国家による健康の強制には気をつけた方がいい。人には不健康に生きる自由もあるのだ。 さらに連載記事<「真面目すぎる学生」が急増中…若者たちを「思考停止」させる「日本の大問題」>では、私たちの常識を根本から疑う方法を解説しています。ぜひご覧ください。
住吉 雅美