「海の異変」なぜ? タチウオ激減、宮島水族館の展示を直撃 垂直に泳ぐ銀色の姿人気だが…
広島県廿日市市の宮島水族館で、瀬戸内海を代表する魚タチウオを周年にわたり展示することが困難になっている。広島県内の漁獲量が激減しているためで、専門家も「海の異変」の原因をつかめていない。同館がリニューアルオープンした2011年以来、主要な水生生物として看板を張ってきたが、現在も展示の中断を余儀なくされている。 【グラフ】タチウオの漁獲量推移 タチウオは刀に似た長細い体が特徴。同館では平常時に約30匹を展示しており、銀色に光る体を見せながら垂直に泳ぐ優雅な姿が来館者に人気だ。寿命は6~8年とされているが、うろこがなく傷つきやすいため長距離の運搬が難しく、飼育は半年が限界という。 同館では、職員が瀬戸内海で釣ったり、漁業者から仕入れたりして定期的に入手できたことから全国で唯一、年間を通して展示できていた。 しかし、漁獲量の減少に伴い、19年は82日、20年以降は100日以上、展示を中断する期間が発生。「釣れたという情報さえ入らない」と担当の野村隆太さん(24)は漏らす。昨秋には何とか約30匹を確保したものの、今年1月1日に最後の1匹が死んだため、現在、専用の水槽ではアオリイカを紹介している。 農林水産省の統計によると、広島県では1984年に最多の2346トンの漁獲量を記録。その後も年千トン前後は取れていた。激減したのは18年以降。21年は過去50年で最少の101トンにとどまった。 広島大大学院統合生命科学研究科の冨山毅准教授(水産資源学)は漁獲量の減少について「正直、原因は分かっていない」と明かす。もともと温暖な海域に生息するため、地球温暖化による海水温の上昇の影響は考えにくく、カタクチイワシなどの餌も不足していないという。「瀬戸内海西部では落ち込みが顕著。原因を解明しようにもサンプルすら入手できない」と説明する。 同館はタチウオを確保でき次第、展示を再開したい考え。野村さんは「県民にとって身近な魚。せめて数が増えるとされる5月頃には見てもらえるようにしたい」と話している。
中国新聞社