インフォーマル部門はアフリカ工業化の希望となるか?(下-2)道路建設業編
その要請に応えようと活動している非政府組織(NGO)の一つが、日本の「道普請人」であり、ケニアではコミュニティ・ロード・エンパワーメント(CORE)という現地団体を創設して活動を展開している。道普請人=COREは、礫質土を入れた破れにくい袋で作成した「土のう」を用いる技術を開発した。この「土のう」を隙間なく整然と並べることで、道路の地盤を固め、土の道を全天候道路に変えることができる(【写真2】【写真3】参照)。
これは、現地で入手できる資材のみを用い、建機などを用いず、ほぼ手作業で済む手法で、コストをかなり抑えることができる。「土のう」技術は、2007年から翌年にかけてケニアで発生した「選挙後暴力」という、民族対立が関わる大規模紛争の後、紛争地で意識的に普及が試みられた。そこで受け皿となったのが、主に紛争後の復興を目指して農村部に多数、形成された「自助グループ」で、元紛争地のそれぞれの村などで道路の改善事業が展開された。 その実績を元に、道普請人=COREはケニア政府と協力し、自助グループからの派遣者に研修を施し、道路建設事業を担う地場のフォーマル企業の育成を試みた。私が2016年に元紛争地で行った同研修の参加者への面接調査では、インタビューができた11の自助グループのうち、10グループが会社として政府に登録をしており、少なくとも形式上はフォーマル化していることが分かった。このようにかなり高い割合のグループがフォーマルな企業となっているのは、道路建設事業の発注者が地方政府であり、正式な契約の主体でないと事業を受注できないこと、また、それを前提にケニア政府と道普請人=COREが意識的に自助グループのフォーマル企業化を後押ししたことによるだろう。つまり研修などを通じて、煩雑な企業登録の手続きの能力などを高めたのである。ただ、フォーマル化したもののなかで、自治体の道路改修事業を受注でき、収入をあげられている企業は4事業者にとどまった。新たにフォーマル化した道路改修事業者でも明暗が分かれているのである。 その原因を調べてみると、収益をあげられている企業のリーダー=研修参加者は学歴も高く、研修での成績もよい。リーダーの資質が企業の成功に関係するのは、よく理解できる。同時に、成功している企業ほど、より近しい民族のメンバーで構成されていることも分かった。選挙後暴力の後、自助グループはできる限り異なる民族の人々をメンバーとすることが良しとされた。しかし、同じ村、同じ学校、同じ民族のメンバーからなるグループが、フォーマル化後の企業として、最も事業の受注に成功していたのだ。他方、民族が多様であるほど収益はあげられておらず、多数の民族の構成員からなる、ある自助グループに至っては、研修に人を派遣しながら、企業としてフォーマル化もせずに解散してしまった。 このことが示唆しているのは、インフォーマルな事業者がフォーマル企業となり、成長していくためには、お互いをよく知り、生活言語=民族も同一で、信頼できるもの同士で構成されていることが重要な意味を持つ。そして、ケニアをはじめとする民族間の対立・亀裂が顕著な社会では、インフォーマルな事業者の成功にも民族性が影響し、そのために集団も単一ないし近しい民族ごとに構成される傾向が強まるのかもしれない。 ※インフォーマル部門はアフリカ工業化の希望となるか?(下-3)家具製造業編 に続く (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授・神戸大学名誉教授・高橋基樹) 専門は、アフリカ地域研究、開発経済学。主な著書に『開発と国家―アフリカ政治経済論序説―』(勁草書房)、『現代アフリカ経済論』(共編著、ミネルヴァ書房)など