<躍進の先に―22センバツ日大三島>/上 粘り強さで劇的勝利 2戦連続サヨナラで勢い /静岡
2―2の同点で迎えた延長十回2死一、三塁。打席の池口奏(かなで)(1年)は冷静だった。七回までの計3打席は凡退したが、九回の第4打席は四球で出塁。ボールは見えており、調子は悪くないと感じていた。「打てる」という自信もあった。 秋季県大会準決勝の静岡戦。勝てば東海大会出場が決まる大一番だ。とにかく走者を還すことだけを考えて、直球に的を絞る。2ボール1ストライクからの4球目。狙っていた「真っすぐ」に、体が自然と反応した。捉えた打球は右翼スタンドに向かってぐんぐんと伸び、サヨナラの3点本塁打となった。 この試合、ベンチには「延長に入れば負けない」という空気感があったという。それは、一つ前の準々決勝の掛川西戦が、チームの「粘り強さ」を生んだからだ。 新チームは8月に始動した。新型コロナウイルスの「第5波」が県内にも押し寄せていた時期だ。チームの目標は「東海大会出場」に定まる。しかし、感染の拡大を防ぐため、他校との練習試合は行えなかった。部員同士の接触の機会を減らすことも求められ、全員で集まることもできず、2グループに分けて練習する日が続いた。 チームは8月下旬に開幕した東部地区予選を勝ち抜くと、県大会も2、3回戦を順調に突破した。しかし、県大会開幕後も、全体練習は行えないままだった。ナインの「スイッチが入らない」状態が続いた。 準々決勝の前日。サインプレーを確認する練習でミスが相次いだ。それだけでなく、選手同士でミスを指摘しあうこともできなかった。見かねた永田裕治監督(58)が練習を止め、「喝」を入れた。「本当に試合前なのか。これではやっている意味がない」 すると、準々決勝の掛川西戦当日、チームの雰囲気は一変する。これまでにないほど活気づき、試合前のウオーミングアップから互いを鼓舞するかけ声が飛び交った。「前の試合まではなかった雰囲気だった。皆、目の色を変えてやっていた」と寺崎琉偉(るい)(1年)。 試合は両チームで計27安打の打ち合いとなった。負ければ、東海大会への道は閉ざされる。「体が壊れてもいいと思うくらい、必死だった」(加藤大登主将)。2番・中堅手でフル出場した寺崎も3安打4打点と爆発した。 1点を追う九回裏。2死走者なしから同点に追いつくと、試合を決めたのは代打の島田誠也(2年)だった。ベンチが押せ押せムードで盛り上がる中、「打席の準備はできていた」。満塁で左翼線にサヨナラ打を放った。 「掛川西に『粘りの野球』で勝てたことでチームがまとまった」と池口が秋季県大会を振り返る。準々決勝、準決勝と2試合連続の劇的勝利で勢いづいたチームは、38年ぶり2回目の県大会優勝を果たした。 ◇ ◇ 第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高野連主催)に、日大三島が38年ぶり2回目の出場を決めた。2021年秋、チームは大会を勝ち進むたびに自信を深め、大きく躍進した。その先にある「甲子園での勝利」を目指す選手たちの成長の裏側に迫った。【深野麟之介】