前代未聞、250人を超える子どもを集団で生贄にしたチムー王国の謎に挑む、新たな発見も
2023年にも多くの犠牲者を出したエルニーニョが関連か、南米ペルー
2023年、ペルーは蚊が媒介するデング熱の歴史的な大流行に見舞われ、17万人以上が感染し、225人以上が亡くなった。大流行の一因が、エルニーニョのせいで続いた高い湿度だった。 ギャラリー:250人を超える子どもの集団生贄の謎に挑む 写真4点 多くの科学者は、周期的に発生するエルニーニョの影響が気候変動によってますます強まっていると考えている。ただし、考古学的な証拠により、エルニーニョは1000年以上前からこの地域の生活に大きな影響を与えていたことがわかっている。当時の人々は、実用的な技術や神々への祈祷によって、エルニーニョがもたらす影響と闘っていた。そのなかには、子どもを生贄にする儀式も含まれていたようだ。それもかつてない規模で。 ペルーの考古学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるガブリエル・プリエト氏は、2011年から、ペルー北部にあった泥レンガ造りの大都市、チャン・チャン周辺で発掘調査を行っている。チャン・チャンは、11世紀からインカに征服される1470年ごろまで、チムー王国の首都だった。 この調査によって、1400年から1450年ごろに、250人以上の子どもたちが生贄となったことがわかっている。おそらく心臓を取り出すために、ほとんどの子どもは胸を切り裂かれ、リャマの子とともに簡素な布に包まれて埋葬されていた。
エルニーニョに悩まされたチムー王国
チムーの生贄の子どもの大半は、ペルーの海岸近くの遺跡で発見された。そこには、エルニーニョが起きていたことを示す確かな証拠も残されていた。古代の乾いた泥の厚い層だ。 泥の層の厚さから、大雨が降ったことがわかる。プリエト氏によると、乾燥した気候のペルー北部沿岸では、このような雨をもたらすのはエルニーニョ現象だけだという。そこに生贄が埋められていた。 チャン・チャンは、綿密な灌漑システムと沿岸漁業によって人口を維持していた。しかし、エルニーニョが起き、海水温が上がって大雨が降ると、その仕組みがうまく機能しなくなる。つまり、大規模なエルニーニョ現象は、チムー王国の政治と経済の安定を揺るがした可能性があると考えられる。 神官や指導者たちは、大雨と混乱を止めるため、最後の手段として、神々にたくさんの生贄を捧げるよう命じたのかもしれない。 「生贄は、超自然的な存在との慎重な交渉であり、コミュニケーションの形態です」と、米ジョージ・メイソン大学の人類学教授であるハーゲン・クラウス氏は話す。「つまり、チムー人たちにとっての宇宙との対話なのです」 「これほどの数の子どもと動物を捧げているのです。国にとって、非常に大きな投資だったにちがいありません」と、プリエト氏も述べる。 子どもの歴史に詳しい米デポール大学の人類学教授ジェーン・エバ・バクスター氏は、チムー王国では、神々への捧げものとして、子どもたちは最も価値が高かった可能性があると話す。 「未来とすべての可能性を犠牲にするのです。子どもを失うことは、家族や社会を未来へつなぐために注いできたあらゆるエネルギーと努力を失うということなのです」