『宙わたる教室』『団地のふたり』と名作を量産するNHKドラマ、最近、より面白くなっているワケ。民放とは異なる強みを解説
実写化にも定評があるNHK
また、NHKは小説や漫画原作の実写ドラマ化にも定評がある。なかでも高い評価を受けたのが、2023年に放送されたドラマ10『大奥』だ。 よしながふみの傑作コミックが原作で、男子のみが罹患する奇病が蔓延し、男女の立場が逆転した江戸時代を舞台にしたSF超大作。2クールに分けて放送されるとはいえ、大奥200年にわたる長い歴史、かつジェンダーや血縁の業などあらゆるテーマを内包した内容の濃い物語をどこまでドラマで描ききれるかという点が不安視されていた。 だが、いざ始まると絶賛の声が続々。脚本家・森下佳子の巧みな取捨選択と改変によって全19巻にも及ぶ原作の魅力を余すところなく盛り込んだ。 『燕は戻ってこない』の放送開始前、事前番組で板垣麻衣子プロデューサーが原作者の桐野夏生と脚本家・長田育恵に共通する“公正性”に言及していたのを覚えている。 板垣Pは朝ドラ『らんまん』でも長田とタッグを組んでいるが、同作では登場人物の良い面も悪い面も両方描かれていた。だからこそ、板垣Pは登場人物の誰もが善悪では語りきれない奥深さを持つ『燕は戻ってこない』をドラマ化するにあたって長田にオファーを出したという。 原作の魅力を損なわないよう、NHKは脚本家選びにも余念がない。
NHKドラマ出演でブレイクした俳優たち
現在放送中の『宙わたる教室』も、伊与原新の小説が原作。年齢も抱える事情もさまざまな生徒たちが、謎めいた理科教師の藤竹(窪田)の導きによって科学で人生を切り開いていく物語だ。 基本的には原作に忠実だが、ドラマでは惑星科学の研究者だった藤竹もまた生徒とともに教師として成長していくという観点が加えられ、より物語の奥行きが増している。原作をリスペクトし、その魅力を損なわず、新たな魅力をプラスして視聴者に届ける。 放送から5年経った今も続編を希望する声がやまない『これは経費では落ちません!』(2019)然り、視聴者の声を受けてスペシャルドラマや続編も制作された『正直不動産』(2022~)然り、賛否が分かれやすい実写化でも高い評価を受けているのはそういう点にあるのだ。 『セカンドバージン』(2010)の長谷川博己、『あさが来た』(2015)のディーン・フジオカ、『半分、青い。』(2018)の中村倫也、『おかえりモネ』(2021)の森田望智や玉置玲央、伊東蒼など、NHKドラマへの出演がきっかけでブレイクした俳優も多い。 現在放送中の『3000万』でも森田想や木原勝利の好演が注目されており、NHKドラマは新たな才能の青田買い的な意味でも見逃せないのだ。そんなさまざまな魅力を持ったNHKドラマに引き続き注目していきたい。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子