追悼・クインシー・ジョーンズ、NONA REEVES・西寺郷太「時代や流行の変化を感じ常に挑戦する人」
ーークインシーのプロデュースワークで、西寺さんがもっとも良いと思う作品はなんでしょうか。 西寺:一曲に絞るのは難しいのですが、彼の「才能と才能を組み合わせて新しいイメージを生み出し、ジャンルや人種、世代の壁を取り払う力」という意味で言えば、マイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」なのかなと思います。若き白人の天才演奏家集団であったTOTOの面々にアレンジメントまで任せ(作曲とキーボードは、スティーヴ・ポーカロ、ドラムにジェフ・ポーカロ、ギターはスティーヴ・ルカサー、シンセサイザーはデヴィッド・ペイチ)、歌詞をカーペンターズの名作群も手掛けたベテラン、ジョン・ベティスに依頼した意外性と手腕こそはクインシーの神さばきといえるでしょう。 それまで、少年的で女性に対して奥手、よってファンタジックなイメージのあったマイケルに、性的に奔放でプレイボーイ的な歌詞をあてがうことで聴く者を一種撹乱させたんです。クインシーはジャクソン5時代のチャイルド・スターの残像を消し去り、成人したマイケルの瑞々しいセクシーさと、ミルキーでドリーミーな楽曲との相乗効果を生み出しました。他方、究極の演奏家集団で、ヴォーカル面が安定しなかったTOTOにも「史上最強のフロントマン」ともいえるマイケルをマッチングさせることで両者の魅力を倍増させました。 ◼️マイケルとは最強のライバル関係 ーーマイケル・ジャクソンとの、『オフ・ザ・ウォール』『スリラー』『バッド』などのプロデュース作品は特にクインシーの名声を確固たるものにしました。マイケルとの共同プロデュース作品においてはどのような印象をお持ちでしょうか。 西寺:クインシーとマイケルの関係は、先生と生徒、といった一方通行的なものではなく、一種、ポップ音楽史上最強の天才同士のライバル関係にあったと思います。その力関係は『オフ・ザ・ウォール』ではクインシーが強く8対2、『スリラー』で5対5から少しクインシー強めの6対4、『BAD』ではマイケルの力が強まり、クインシー3対マイケル7のようなバランスとなったのではと思います。いずれも傑作ですし、甲乙つけ難いのですが。例えばオアシスのリアムとノエルや、ビートルズのジョンとポール、ローリング・ストーンズのミックとキースのような、親愛と憎悪が入り混じるほどにお互いのパワーを限界まで引き出す間柄だったんだと思っています。 ーークインシーは、マイケル・ジャクソン以外でも素晴らしい作品をプロデュースしていますよね。 西寺:クインシーの功績を語る時に、マイケルとの作品だけがフォーカスされてしまうのは彼にとっては不服だと思います。カウント・ベイシーやビリー・ホリデイ、レイ・チャールズ、フランク・シナトラ、マイルス・ディヴィス、ジョージ・ベンソンなど、数多くのレジェンドや若い世代とありとあらゆる傑作を作ってきたのがクインシーなので。僕らのような80年代から彼を知る世代にとっては、巨匠、大御所のイメージがつきまといますが、元々クインシーは若い頃からジャズのスター達に可愛がられた究極の人たらしなんですよね。70年代以降はディスコやファンクといった当時の新たなリズムの魅力を、ジャズ出身ならではの優美さと芳醇さでエレガントに発展させ、世界中の老若男女に最もレコードを売る、という偉業を達成した凄まじい人です。 それにクインシーはビッグ・バンドを率いた時代の金銭的苦労の経験もしているからか、音楽とビジネスを両立させることを意識していたことでポップスの世界で人気を極めることができたのだと思います。