問題「7本の鉛筆を3人で分けると、1人何本ですか」に、2.3…本と答えられないワケ…「折ることができないから」ではありません
連続量の円周率から小数点を取ってしまう「暴挙」
小学校で出てくる連続量は長さ、重さ、液量などです。 その代表的な数値に円周率があります。率というのは円周の長さと直径の長さの比(= 円周の長さ ÷ 直径)だからですが、直径が1の場合の円周の長さにあたります。 円周率では3.14がよく使われるわけですが、一時期、小学校で3を使うか否かという議論がありました。その理由は「小数の計算を習っていないから」だということでしたが、不可解でした。なぜ3.14という数値なのかを知っていて3を用いるのと、計算ができないから3とするのとではまったく意味が違います。余計な配慮は徒(あだ)となります。 円周率にπという記号が使われる理由は、この値はいつまでも続くので書ききれないからです。つまり、計算は可能なのですが、規則性もなく、いつまでもダラダラと続いて終わりがありません。このような終わりのない数を無理数と呼んでいます。
無理数は、連続量から生まれてくる
3.14というところで切り取って使うのは、通常の実用上はそれで十分事足りるからということもあります。ただ、いつも3.14を使っているので、それが近似値だという認識のない大学生もいるようです。つまり、半径2cmの円の面積である3.14×(2×2) = 3.14×4=12.56cm²が近似値ではなく正確な値だと思っているわけです。 円周率以外にも、1辺の長さが1の正方形の対角線の長さであるとか、1辺の長さが1の正三角形の面積などはすっきりした数にはなりません。いわゆる無理数というのが出てきます。連続量から無理数が生まれてくるわけです。 無理数を使った実際の計算では近似値を使用するしかないのです。紀元前には、円周率は3.14ではなく、22/7という分数がよく使われていました。もっとも、小数表記が発達していない時代での話なのですが、手計算ではこの分数を使う方が楽かもしれません。
離散量と連続量の理解が大切なわけ
ただ、最近では何でも電卓で計算できますので、π や√2などの記号を使わずに、いきなり数値に直して電卓で済ませようとする傾向があります。しかし、実は計算の過程ではπとか√2とかの記号を使い、最後の結果を得た後で、数値に置き換える方が数段便利なわけです。 ある国の授業を見たときのことですが、√2などが使われている式を最初に電卓で 数値に直してから計算する生徒がいました。ところが、数値が煩雑になって途中で計算をあきらめてしまいました。必ずしも電卓を使った計算が合理的とはいえないわけですね。その意味では、中学校や高校でこれらの記号を用いた演算がスムーズにできるようにしておくことは大切なわけです。 離散量と連続量の違いからくる接し方を知っておくことは無駄ではないでしょう。やはり、人間の合理的な思考は重要なわけです。 物の個数などの離散量は自然数を含む整数の範囲で十分ですが、連続量は分数や小数等の表現を用いなければなりません。したがって、分数や小数(無理数を含む)などの実数と呼ばれているものの扱いがどうしても必要になってくるわけです。 我が国では、キャンディでもチョコレートでも箱やパックに入って売られていますが、これは離散量の世界です。一方で、外国に行くとキャンディでもチョコレートでも量り売りが多いですが、量り売りは連続量の世界です。これは文化の違いでもあります。 いずれ紹介しようと思っている小数と分数という量の数値化の違いにも表れてきます。しかし、その前に、連続量にある2つの量の話をしておきましょう。 ---------- 学びなおし! 数学 代数・解析編 なっとくする数学キーワード29 ロングセラー『なっとくする数学記号』の著者にして、数学教育を知り尽くした専門家だから書けた、「学びなおし」の決定版! ----------
黒木 哲徳(福井大学名誉教授)