『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』シリーズ超初心者が観てみた 未見勢には予習が必要?
かつてどこかで「コナンフリークはコナンの公開で春を感じる」と読んだことがある。そして今年もいよいよ、コナンの季節がやってきた。“コナンで春を感じる”べく、私も最新作『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』を観るために劇場へ足を運んだ。 【写真】函館山での平次と和葉 私が初めて『名探偵コナン』シリーズに触れたのは、2023年に公開された『名探偵コナン 黒鉄の魚影』だった。その後、友人の勧めで『天国へのカウントダウン』を視聴し、今回の『100万ドルの五稜星』で3作品目となる。 公開までにネタバレを踏まないようにするのは大変だった。SNSを開けば、どこかしらで必ずと言っていいほどコナンの話題が飛び交っているからだ。編集部からも「映画を観る前に見ていいのは公式サイトだけです」と念を押されていた。公開直後の熱から、それほどまでにコナンが愛されているのだと実感させられる。 率直に感想を述べると、今回の作品は少々「上級者向けなのでは?」と思わされる展開も多かった。新撰組をテーマに扱っていることもあり、もはやコナンは子ども向けではないのかもしれないとすら感じた。登場人物の関係性や過去の事件など、これまでのストーリーをある程度知っていないと楽しみづらい部分もあるだろう。もちろん、そういった要素を含めて既存のファンに評価されている部分もあることは間違いはない。そういう意味でも、やはり「継続は力なり」とはこのことで、「いくつかの作品を続けて鑑賞する」ことがコナンの醍醐味だと改めて気づかされた作品だった。 前作では序盤10分ほどで主要キャラクターや各組織の説明が入り、概ねの関係性を理解できたのだが、今回のキャラ説明はかなりあっさりめだった。だからこそ、コナン初心者の私は「まぁ今回も前振りの説明があるだろう」と公式サイトの復習を怠っていたことをやや後悔することになる。おそらく『100万ドルの五稜星』に登場するキャラのみに焦点を当てたためだろう。 さらに映像が新撰組仕様になっていて、こだわりは非常に伝わるのだが、「あらすじ」としては前回よりもやや視覚的にわかりにくい部分もあったように思う。ということで、初心者は鑑賞前に最低限公式サイトをしっかり見ておくことを強く勧める。 ※以下『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』のネタバレを含みます 『黒鉄の魚影』を昨年に鑑賞したことから、私は「黒の組織」がポケモンの"ロケット団"のように毎回登場するものだと思っていたので、必ずしもそうではないことに驚かされた。そして今回は、前作には登場しなかった「服部平次」が登場する。映画の開始早々、まずは率直に「蘭姉ちゃんに園子以外の友達もいたんだ」と安心した。彼と遠山和葉のラブストーリー要素はわかりやすくてよかったし、コナンらしいツッコミどころも多くて楽しめたことは間違いない。特に剣技の音の違いすら聴き分ける和葉の驚異的な耳の良さには度肝を抜かれた。「もはやその聴力を活かして、コナンに負けない探偵になれるのでは?」とすら思えたほどだ。 また、運転手不在(なのになかなか墜落しない)の戦闘機の上で戦う平次と映画オリジナルキャラクター・福城聖の姿は、まるで『大乱闘スマッシュブラザーズ』のステージを観ているかのようだった。真面目なアクションシーンにもかかわらず、現実離れしたシチュエーションのギャップが面白い。もちろんコナンくんも大活躍! 彼が愛用しているスケートボードで大暴れする様子を、観客が真剣に見つめる空気感にもようやく慣れてきた。しかし、こうした“お馴染みの展開”なのであろう要素の中にも、個人的に本作の中で新しく大きく刺さったポイントがある。 それこそが、怪盗キッドの登場だ。真っ白なタキシードにシルクハット、さらには顔が見えないモノクルという、『美少女戦士セーラームーン』で育ったヲタク女子の癖を刺してくる特徴が詰め込まれている謎多き青年。飄々とした振る舞いに紳士の装い……そして何より銃から発射されるのがトランプだなんて、あまりにもおしゃれすぎる。「なんでこの人、前回の作品にもメインで出てこなかったの?」と内心思ったが、ここで出会えてよかった。登場時の楽しげな音楽も、彼の余裕でスマートな盗みのスタイルを強調しているようでいい。 結局、最後にピンチに陥った平次を颯爽と助けたのも彼だ。私のような初心者から観ると、本作の“実質主人公”は怪盗キッドだったのではないだろうか。ラストの展開の雰囲気から、おそらく既存ファンにとっても本作が怪盗キッドを紐解く重要な作品に位置するであろうことは伝わってきた。しかし、予備知識の少ない私にはそこまで深くついていけなかったのが少々残念だ。これは今後の勉強のしがいがありそうだ。 そして、予想外だったのが小野大輔の執事役だ。私は『黒執事』の大ファンなのだが、「あのお嬢様と執事は一体何者なのだろう?」と首を傾げつつも、セバスチャンとは異なる小野大輔の“執事ボイス”を聞けてかなり満足だった。さらには、今作では津田健次郎が土方歳三を演じているではないか。津田健次郎×新撰組といえば『薄桜鬼』風間千景役が真っ先に思い浮かぶが、今回は土方役ということで、IFの世界を見ている気分になった。偶然とはいえ、こうした声優とキャラクターの「意外な巡り合わせ」も本作で大きく楽しめたポイントだった。 こうして無事“コナンで感じる春”を体感してきたわけだが、昨年に引き続き、予備知識のない初心者でもコナンの世界観に引き込まれる魅力は健在だった。ただし、本作でコナンデビューを果たす“未経験者”にとっては最低限の予習が必要な作品であるように感じた。かくいう私も、現在さまざまな考察や解説を観ながら、本作の復習に追われているところだ。しかし、穴を埋めていく時間すらも楽しいと思わせてくれるところが、『名探偵コナン』の魅力なのだろう。この復習の成果を生かすべく、来年の“コナンの季節”を楽しみにしている自分がいる。
すなくじら