全米女子OPでワンツー、笹生優花が見せた「強さ」と渋野日向子の「復活」
我慢を続け、2位のシルバーメダルを首にかけることができたのは渋野だった。トータル1アンダー、3日目にはトップの4アンダーを出し、4日間のバーディ数17は笹生を抜いて全体1位。メジャーでは必ず注目の的になる〝スマイリング・シンデレラ〟が戻ってきた。 渋野は19年にメジャーチャンピオンになって以降、なかなかそれを次へのステップにつなげられなかった。期待が集まるほど悩みは増え、スイングの大幅な改造も行なった。メジャーでのトップ10、国内ツアーでの優勝もあり、22年からアメリカツアーに専念したが......世界ランキングは下降を続け、昨季は米ツアーのシード権も失った。 今季も低迷が続いていたが、ランカスターの週末は見違えるようだった。これで「復活」したといってよいだろう。 小山氏は「パッティングが良かった。パーパットも含め、大事なところで決めていました」と言う。最終日も、最難関の12番パー3でのこと。グリーン奥からバーディを狙うが、グリーン手前にはクリーク(小川)が流れ、強く打つとボールが川に落ちるのは確実。 それでも渋野は、カップに向かって大きくスライスするラインを読み切り、ジャストタッチでバーディを決め、ガッツポーズが出た。 「ショットもこれまでのように、ミスをした後にスイングを気にして、素振りを重ねるシーンはありませんでした。スイングの形より、目の前のワンストロークに集中させられるハードなセッティングでしたから」と小山氏は話す。 「1試合だけで期待するのは性急ですが、渋野の本来の持ち味である『ゲームを楽しむ』ことはできていました。これにショット力がつくと、再びメジャーでトップ争いをする可能性は十分にあります」 コースの中でも、記者会見の場でもスマイルが絶えなかった渋野は、ひと組前を回る笹生のプレーに拍手を送り、彼女の優勝が決まると「マジで強いわ」と繰り返し伝え、笑顔でハグを求めた。 その笹生&渋野のワンツーだけでなく、6位タイに古江彩佳、9位タイに小祝さくらと竹田麗央が入り、トップ10のうち5人を日本勢が占めた。 予選を通過したのも、史上最多の14人。その躍進の要因について、小山氏は「JLPGAの小林浩美会長が進めている、国内ツアーでの、海外で勝てる選手の育成、強化の成果だ」と語る。 13年から始まったツアー強化は、米ツアーと同じ4日間大会を増やし、コースも距離からグリーンの速さ、ピンの位置など、海外を想定したセッティングを行なっている。 「もうひとつは、米ツアーのレベルを肌で感じられるようになったこと」(小山氏) 笹生も渋野も国内ツアーを経て渡米した。彼女たちと一緒にプレーした選手は、今の自分の力量と米ツアー、メジャーとの距離感がわかっている。技量が整えば、「海外に出ていきたい」と思う選手は増えるだろう。 笹生の強さに圧倒されたランカスターだったが、次のメジャーは全米女子プロ。そして、セントアンドリュースで行なわれる全英女子オープン、8月には笹生が日本代表に当確しているパリ五輪も控える。笹生、渋野をはじめ、レベルの上がった日本選手が躍動する舞台は残っており、今後も期待せずにはいられない。 取材・文/小崎仁久 写真/アフロ