日米比首脳会談:同盟重層化で対中けん制を強化
高畑 昭男
日米とフィリピンによる初の3カ国首脳会談が4月に米国で開かれ、中国の危険で強引な海洋進出を名指しで非難した。5月にはオーストラリアを交えた日米豪比の4カ国国防相・防衛相会談も開かれた。日米を軸に、多国間ネットワークで中国に立ち向かう同盟の「重層化戦略」の抑止効果が注目されている。
「ハブ・アンド・スポーク」から「格子状ネットワーク」へ
同盟の重層化は、日米が対中抑止を強化するために共同で進めている戦略だ。第二次大戦後のアジア太平洋の安全保障は従来、日本、韓国、豪州、フィリピンなどが米国と個別に結んだ同盟関係による「ハブ・アンド・スポーク体制」(米国を車軸とし、同盟国をスポークとする車輪にたとえた体制)で支えられてきた。しかし、最近は米国自身が相対的な国力の低下に加えて、欧州や中東の紛争も抱えている。ルールを無視して覇権主義的な海洋進出を強行する中国に対抗するには、手が回らなくなった。 「統合抑止」を掲げるバイデン政権は、日韓豪などの同盟パートナーにより大きな負担を呼びかける。一方、日本も英国との間で事実上の日英同盟復活といえる安保協力を強化したほか、イタリア、フランスなどとも連携を深めている。北大西洋条約機構(NATO)の欧州主要国を対中抑止に巻き込むなどの重層化に努めてきた。日米を軸に同盟・同志国の間で多重構造の連携と協調を進めることによって、「格子状(グリッド)」のネットワークで中国の危険な行動を包み込む構想といえる。 日米豪印4カ国による「クアッド(Quad)」戦略対話や、オーストラリアに原子力潜水艦を供与する米英豪の安保枠組み「オーカス(AUKUS)」(2021年発足)に加えて、昨年夏には米キャンプデービッドで日米韓首脳会談が開かれ、「日米同盟・米韓同盟の戦略的連携強化」を誓い合っている。 こうした流れを受けて開かれたのが、岸田首相による4月の国賓訪米に合わせて開かれたマルコス・フィリピン大統領とバイデン、岸田両氏による史上初の日米比首脳会談だった。 フィリピンは中国と領有権を争う南シナ海の岩礁を巡り、同国の補給船が中国艦船の体当たり攻撃や高圧放水を受けて負傷者を出すなどの深刻な事態が続いている。マルコス大統領は、前任者の対中融和外交では「自国の安全が守れない」との戦略的判断から、3カ国首脳会談を通じて日米などと連携を深める路線に大きくかじを切った。