衝撃6回TKO勝利で全米を驚かせた3階級制覇王者の中谷潤人の何がどう凄かったのか…計算尽くされた左ストレートと“ネクストモンスター”の資格…V1戦はフィリピン強豪と指名試合
プロボクシングのトリプル世界戦が24日、東京墨田区の両国国技館で行われ、セミファイナルで元2階級制覇王者の中谷潤人(26、M.T)がWBC世界バンタム級王者のアレハンドロ・サンティアゴ(28、メキシコ)を6回TKOで下して史上7人目の3階級制覇を果たした。スーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(30、大橋)と2度対戦した元5階級制覇王者のノニト・ドネア(41、フィリピン)に圧勝し、バンタム級最強と評判だったサンティアゴに何ひとつさせずに6回に左ストレートを打ち抜いた。米メディアや元世界王者は中谷の衝撃KO勝利を「ほぼ完璧」と絶賛した。中谷の戦績は27戦全勝(20KO)。
それは計算尽くされた一撃だった。6ラウンド。これまでサンディエゴの背丈に合わせてクラウチングに構えていた中谷が体を起こしてアップライトに構え直した。上下にぴょんぴょんと軽くジャンプするようにしてリズムを取る。名トレーナー、ルディ・エルナンデスからの指示だったという。 「アップライトに構えてワンツー。テンポを変えたことでリラックスして左ストレートが打てた」 力みが消え、必然的にパンチの角度が変わり強度が増した。 軽く右を見せてからの左ストレートがサンティアゴの顎付近を打ち砕く。 ドネアを破った男は、それが「見えなかった」という。 「パンチ力としては普通だったと思うが、(急所に)当てるという技術が絶妙だったのだろう」 8500人で埋まった両国国技館は、あまりにも衝撃的な一撃に、一瞬、静まり返るような異様な雰囲気に包まれて、やがてどよめきと歓声が交錯した。 腰から崩れ落ちたサンティアゴは立ち上がってきたが、もう足が地についていなかった。 コーナーにつめての猛ラッシュ。右のフックがヒットしてサンティアゴがダウンすると、レフェリーは途中でカウントをやめて中谷のTKO勝利を宣告した。 中谷は満面の笑顔でルディトレーナーと抱き合い、リングサイドの両親や応援団に合図を送ったが、それ以上、派手なパフォーマンスはしなかった。 「ボクシングは相手があるスポーツなんだよ」 ルディトレーナーにかつて言われた言葉が頭をよぎった。 勝者がいれば敗者がいる。度を越したパフォーマンスは敗者を侮辱することになりかねない。中谷の人柄を示すような配慮だった。 米ボクシング専門サイトの「ボクシングシーン」は米に配信されたESPNで実況していた元WBO世界スーパーライト級王者クリス・アルギエリ(米国)の「中谷の非常に特別なパフォーマンスは、ほぼ完璧だった」というコメントを伝えた。 現役時代に元6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(フィリピン)と対戦したこともあるアルギエリは、「サンティアゴは途方に暮れているように見えた」とも話したという。 まさに完璧だった。 序盤は体を沈めクラウンチングで対峙した。上半身は極端な後傾姿勢。ドネアに勝ったサンティアゴの爆発力を警戒していた。 「がんがんくる選手。上体が立つと体が固くなってパンチが効いてしまう。自分の距離を徹底して、ルディの指示を聞きながら試合を組み立てた」 防波堤の役目を果たす右のジャブが良く出た。そしてサンティアゴが強引に入ってくると、そこに左ストレートをお見舞いした。13センチの身長差を存分に生かした定石である。右の防波堤と左の強烈な二の矢が怖くてサンティエゴは、ほぼ何もできなかった。 「距離をとった中谷の作戦が私を困らせた。上体を揺らして中へ入る作戦だったが、サウスポーの彼は距離を取ることに長けていた。もっとプレッシャーをかけてくっついて戦わないとダメだった」とは、試合後の元王者の回顧。 持ち前の回転力を生かした接近戦をさせなかったのである。 「やり辛いだろうなと感じていた。最初からコントロールできた」 4ラウンド終了時点での公開採点は3者が中谷にフルマークをつけた。 メキシコ人は「もっとパンチを出してイニシアティブを与えないようにしなければ」と5ラウンドから前に出てこようとするが、そこに左、右、左、右の4連打。もうどちらがチャンピオンかわからない。
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