『きのう何食べた?』S2最終回に詰まっていた深い愛 あまりにも優しい「一緒にいるよ」
人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京)。season2の最終話は、西島秀俊演じる筧史朗(以下、シロさん)と内野聖陽演じる矢吹賢二(以下、ケンジ)、お互いへの深い愛に満ちた回となった。 【写真】ケンジ(内野聖陽)が作ったお弁当に感動するシロさん(西島秀俊) 物語の中で、シロさんとケンジはお互いのために誕生日プレゼントを用意する。シロさんはケンジへの誕生日プレゼントに頭を悩ませることになった。誕生日プレゼントの希望を尋ねたところ、「なんでもいい」「シロさんにお任せすることに決めました」と言われてしまったからだ。何がいいかわからず、シロさんは職場でも頭を抱えていた。 そんな折、シロさんは久栄(梶芽衣子)と悟朗(田山涼成)と話す中で、自分の老後もそう遠くないことに気づかされる。そこでシロさんは誕生日プレゼントとは別に、ケンジにある提案をした。それは、自分の遺産をケンジに譲る遺言書を書くことだった。もし自分に何かあった時、残されたケンジにしてやれることはないかと考えるシロさんの思いは、視聴者の胸にはしっかりと届いていたはずだ。 だが、シロさんの提案は時に現実的すぎるがゆえ、ケンジとの間に少しだけ距離ができてしまう。養子縁組の提案を聞いたケンジは「シロさんって、結局お金だけなんだねー」と言った。口元こそ微笑んでいるが、失望感が漂う。感情の起伏のない言い方をすることで、自分の感情を押し隠しているように見えた。ケンジは養子縁組を嫌がった。言葉に詰まるシロさんを前に、正直な思いを口にするケンジからは、やがてやり場のない悲しみが溢れ出す。 「もし将来、男同士で結婚できるってなったとしても、シロさんと俺が養子縁組しちゃってたら、俺たち結婚できなくなっちゃうじゃない。やだよ、そんなの」 「大体俺、家族って言ったって、シロさんと親子になりたいわけじゃないもん」 シロさんを涙ながらに見つめるケンジは、これ以上泣かないようにと懸命に涙を堪えているように見える。そんなケンジの顔をじっと見て、口を固く結ぶシロさんの表情が印象的だった。久栄と悟朗の言葉を借りれば、シロさんもまたケンジという大切な人に気持ちを伝えたいからこそ、遺言書、そして養子縁組の提案をした。けれど、その提案によって目の前にいる大切な人を傷つけてしまった。その事実にショックを受け、深く反省しているようにも見えた。胸が締め付けられるやりとりだった。 シロさんとケンジにとって、ケンカではなくとも心にしこりが残る出来事だったと思う。それでも2人がお互いを思う気持ちは変わらない。ケンジはシロさんのためにお弁当を用意していた。それはシロさんの好きな具材が詰まったのり弁だった。 物語の冒頭で、シロさんが「ケンジが何欲しがってるかなんて全然わかんない」「多分、あいつのこと、普段全然見てないんです」とこぼした時、佳代子(田中美佐子)はこんなことを言っていた。 「毎日こんなにケンジさんの好み考えて、ご飯作ってる人が見てないわけないじゃない」 この台詞はケンジがシロさんを思ってご飯を作る時も変わらないのだと分かる。ケンジが作ったのり弁と、それを美味しそうに頬張るシロさんを見ていると、ケンジからシロさんへの愛が十二分に見て取れる。形として残そうとしなくとも、相手を思う気持ちは形となって表れるものなのだ。 シロさんが考えた末に、誕生日プレゼントとして選んだのはお揃いのエプロンだった。色こそ違うが、シロさんはケンジが好む「お揃い」のものを選んだ。プレゼントを渡す時とケンジの方を向いてお揃いのエプロンをつける時、シロさんの満面の笑みからケンジに喜んでほしいという思いやケンジが喜ぶのではないかと心を高鳴らせている様子が感じられ、胸が熱くなる。 死ぬまで一緒にいるとは断言できないと言うシロさんだが、この言葉は決して寂しいものではない。未来は誰にも分からない。そのことをふまえたうえで、シロさんは「俺の人生で、俺の遺産譲ろうなんて思う相手は、お前ぐらいだよ」とケンジに伝えた。 遠回しに愛情を表現するシロさんらしく、心の底にある強い思いは決して口にしない。一緒に料理をするケンジの横顔を愛おしそうに見つめながら、シロさんは心の中で呟いた。 「もしもこの先、俺たちが別れることになったとして、俺が死ぬ時、お前が誰か別の人と暮らしてても、それはそれでいいんだよ。俺は、お前が幸せなら」 変わっていくものと変わらないものをテーマにseason2の物語は描かれてきた。シロさんにとっての変わらないものは、一貫してケンジへの深い愛だったことに改めて気づかされる。そして、その思いは言葉にせずともケンジに伝わっている。ケンジはまるでシロさんの心の声に返事するように「一緒にいるよ」と言った。シロさんの心に寄り添うように穏やかで優しい声色だった。シロさんもケンジもお互いの言葉で、変わらぬ愛を伝え合った。 「俺は、死ぬまでシロさんと一緒にいる。死んでもいる」 人と人が思い合う気持ちの大切さを教えてくれる作品だった。
片山香帆