少子化対策の財源確保で『国民負担は生じない』との説明は本当か?
「実質的に国民の追加負担は生じない」、「国民負担率は高まらない」は本当か
一方で政府は、「支援金」の負担額について、歳出改革によって社会保険料の増加を抑えること、賃金が増加することで、「実質的に国民の追加負担は生じない」、「国民負担率は高まらない」と説明している。しかしこの説明に対して、「わかりにくい」との批判が生じている。負担が生じないと説明するのは、正確性と真摯さを欠くのではないか。 国民負担率とは、国民所得に占める租税負担と年金・健康保険・介護保険など社会保険料負担の合計の割合のことだ。政府は、社会保障の歳出改革で保険料の伸びを抑え、国民負担率をその分押し下げると説明している。 しかし、歳出改革で保険料の伸びを抑えるということは、社会保障支出が削減され、国民が受け取るサービスが減ることを意味する。その分だけ保険料の負担が減るとしても、国民にとっては中立的だ。そして新たに導入される医療保険料の上乗せ分だけ、国民の負担はやはり高まることになるのではないか。 さらに政府は、今春以降の賃上げにより負担率の分母が増えるため国民負担率は上がらない、とも説明している。しかしこれは、よくわからない説明でもある。通常、国民負担率は租税と社会保険料の負担を国民所得で割ることで求める。この国民所得は国内総生産(GDP)に近い概念だ。そのもとで、賃金上昇率が高まっても国民所得は変わらない。賃金の変化は、企業と労働者との間の分配に影響を与えるものの、GDPや国民所得には直接的には影響を与えない。従って、賃金が変化しても国民負担率には影響しないのである。 このように政府は、国民の間にできるだけ負担感が生じないように財源確保の手段を選択し、さらに負担が生じない点を強調した説明をしている。しかしそうした曖昧な姿勢こそが、国民の間に不信感を高める結果ともなっているのではないか。 政府は、少子化対策の重要性をしっかりと国民に説明したうえで、その負担を真正面から国民に求めることが重要だろう。少子化対策の重要性を多くの国民は十分に理解していることから、一定の負担を受け入れる覚悟は十分にあるのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英