【最新ビジネスレポート】各社の強みが丸わかり!拡大する「ノンアル市場」を制するのはこの商品だ!
隔世の感があった――。 4月某日、都内の公園を訪れた記者が目撃したのは、桜の木の下にレジャーシートを広げ、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎに興じる人々の姿だった。新入社員との懇親会を兼ねているのだろうか、20代前半~50代の男女が15人ほどで春の風物詩の花見を楽しんでいたのだが――。管理職と思(おぼ)しき赤ら顔の男性がカップ酒を呷(あお)る中、ほとんどの若手社員たちが手にしていたのは、キリンの「グリーンズフリー」だったのだ。 【図解】"スマドリ時代"を勝ち抜け!ノンアルコール飲料業界の猛者がズラリ 今、日本ではアサヒビールが提唱した「スマドリ」がちょっとしたブームになっている。「飲める人も飲めない人も、体調やシーンに応じてスマートにドリンクを楽しめる飲み方の多様性」を指すこの言葉を象徴しているような光景だった。 若者たちが飲んでいたグリーンズフリーの前身である「キリンフリー」が発売されたのは、’09年4月のことだ。経済ジャーナリストの高井尚之氏は「キリン初のノンアルコールビール誕生の背景には、大きく3つの要因があった」と話す。 「1つは、飲酒運転の厳罰化です。’06年に起きた飲酒運転による凄惨な事故を受け、翌’07年に法改正がなされた。2つ目は、若者のアルコール離れ。国税庁が調査した成人一人あたりの酒類消費量は’90年代前半をピークに減少傾向にあり、21世紀に入ってからその勢いは増すばかりでした。そして3つ目が健康志向の高まりです。’07年頃から『人生100年時代』という言葉が登場し、’08年にはいわゆるメタボ診断がスタート。糖類やプリン体が含まれているビールを避ける消費者が増えたのです」 ライバルの大手ビールメーカーも黙っていない。’09年9月にはサントリーが「ファインゼロ」、アサヒビールが「ポイントゼロ」、サッポロビールが「スーパークリア」を発売。しかし、これら草創期のノンアル商品がヒットすることはなかった。現在はいずれも製造終了となっている。そんな膠着状態が続いていた’10年、サントリーが特大ヒットを生み出した。「オールフリー」である。 「好調の要因はマーケティング力でした。キリンフリーはアルコールはゼロでしたが、微量なカロリーや糖質が含まれていた。ところがオールフリーは、アルコールもカロリーも糖質もゼロ。プリン体もほぼゼロ。健康志向の人々に刺さったんです。『健康的で体に優しい』を前面に押し出して消費者にアピールした。この成功を受け、サントリーは’19年に『からだを想うオールフリー』を発売。これは3つのゼロだけでなく、内臓脂肪を減らす効果まである画期的な商品で、今でも愛飲されています」(食品業界紙記者) オールフリー発売から2年後、今度はアサヒが日本一売れる「スーパードライ」の再現を「ドライゼロ」というノンアルビールで試みた。味で勝負に出たのだ。ビールライターの富江弘幸氏が話す。 「ノンアルビールの課題はやはり、味のどっしり感がないこと。麦芽の旨味は軽い味わいになってしまうのです。これでは、ビール好きは『わざわざ飲むほどではない』と考えてしまう」 ″どっしり感のなさ″の原因は、その製法にある。基本的にノンアルビールは、未発酵の麦汁を炭酸水で割り、甘味料や酸味料で味を調え、ホップの苦みを加えて作られる、いわばカクテルのようなもの。各社この調合を研究しているわけだが、アサヒは発想の転換に踏み切った。 「麦汁を一切用いず、かわりにビールを思わせる『MBT』と呼ばれる香気成分を添加したのです。麦汁はビールの原料ですが、一方で雑味やイヤな匂いの素にもなる。アルコールがいらないなら、麦汁を使わずにビールの香りを添加すればいい」(前出・記者) ◆ノンアルRTDという新戦場 味で勝ったドライゼロは、オールフリーを押しのけて業界売り上げ1位に躍り出た。しかし、王者はここで止まらない。昨年新たに発売した「アサヒゼロ」が、業界を騒然とさせたのだ。 「アサヒゼロは、一度ビールを作った後に、アルコール分のみを取り除く『脱アルコール製法』を日本で初めて採用したのです。ネックは一度アルコールを発生させるため、酒税法が適用されること。コンビニ価格で約180円(一般的なノンアルビールは130円前後)と少しお高めです。それでも、醸造を経るので、麦芽の旨味、香りが強い」(前出・富江氏) アルコールは入っていないのに、ビールに近い味わいが楽しめる商品を展開しているアサヒが、現在はノンアルビール界を席巻しているのだ。 ただし――ノンアル業界の戦場は、ビールだけではない。缶チューハイやハイボール缶といったRTD(レディ・トゥ・ドリンクの略)市場でも、アツい戦いが繰り広げられている。主役は、ノンアルビールでアサヒに差をつけられたサントリーだ。年間1000本以上の缶チューハイを飲む缶チューハイ研究家の「ストロングおじさん」氏が話す。 「コロナ禍で在宅時間が増加する中、昼夜問わず手に取れるノンアルRTDの需要が伸びていました。そんな中、’21年3月にサントリーが『のんある晩酌』を発売し、これが特大ヒット。年末までに200万ケースを売り上げました。’21年の業界全体の売り上げが672万ケースですから、凄まじい数字です。 ヒットのヒミツは何か。それは、『ジュースとの差別化』です。他のRTD飲料は甘いものが多く、『ノンアルレモンサワーとレモンスカッシュの何が違う?』という問いに答えられていなかった。これに対しサントリーは、焼酎由来の旨味をノンアルのエキスとして凝縮させる製法を同社商品で初めて採用。甘さは控えめで、お酒の香りもするノンアルRTDを開発したのです」 サントリーは翌’22年に「ノンアルでワインの休日」を発売するなど、ノンアルRTDの覇権を握った。 サントリーが酒類のノウハウで「ジュースとの違い」という課題を克服したのに対し、日本コカ・コーラは独自のノウハウで「よわない檸檬堂」を発表した。 「コーラは元々、ワインにスパイスを入れて作った薬のような飲み物でした。だから、味わいの組み合わせには自信がある。コカ・コーラが出した『ジュースとの違い』の答えは、ジュニパーベリーの実でした。これはジンの香りづけとして有名なスパイスで、ほのかな甘みと爽やかな香りがする。このエキスを添加し、食塩を加え、レモンサワーにあってレモンスカッシュにない味の奥行きを再現したのです」(飲料専門家の江沢貴弘氏) 宝酒造は自信のある焼酎を武器に’22年10月、「辛口ゼロボール」を発売した。 「宝酒造の焼酎蔵には、85種類、2万樽の熟成された焼酎があり、その全ての美味しさを凝縮した『タカラ焼酎ハイボールエキス』を開発。味に自信があるため、『のんある晩酌』や『よわない檸檬堂』と異なり糖質もカロリーもゼロ。さらに人気商品となるでしょう」(同前) 大手が全精力を傾けて生み出した商品で激闘を繰り広げるノンアル飲料業界の開発競争が終わることはないだろう。 『FRIDAY』2024年5月10・17日号より
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