丹後半島の築60年・家賃3万円の空き家移住を機に1000万円の船をローンで購入…32歳独身男性が脱サラして港町で手にした心の余裕
京都府北部の丹後半島に位置する伊根町は、江戸末期から昭和初期に建てられた約230軒の舟屋が続く独特の町並みで「日本のヴェネツィア」とも呼ばれ、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。今回紹介するのは、そんな伊根町が忘れられず、京都市内のサラリーマンから遊覧船船長に転身した、寺谷僚介さんの移住ストーリーだ。 【画像】脱サラして遊覧船船長になった32歳男性の素顔
「伊根で漁師になりたい」会社員7年目での決意
寺谷僚介さん(32歳)は小学生のころから毎年、父と一緒に京都市内の自宅から車で2時間の伊根町に釣りに行っていた。毎回同じ民宿「鍵屋」に泊まり、朝起きたら海があって、宿の前から船に乗って釣りに行ける楽園。大人になったら伊根に住もう……寺谷少年はそう心に決めていた。 時は流れ、少年は大学の経営学部を卒業。同級生がみんな就職活動をする中、同じように活動し、企業に就職した。医療機器の営業マンとして勤めていたが、やっぱり「伊根で漁師になりたい」という思いは消えなかった。 そこで、2017年ごろから人伝てに伊根の橋本水産を紹介してもらい、社長に「就職したいです」と連絡。「人手は足りているから」と断られるも、翌年には船舶免許を取得し「本気度を見せ」、就職希望をアピールし続けたところ、2019年、遂に橋本水産から内定をもらった。 寺谷さんは7年勤務した会社を退職し、伊根に移住した。
漁師から遊覧船の船長へ転身
初めての漁師としての仕事は、当然ながら楽ではなかった。水を吸った漁具は重く、ハードな肉体労働が続いたが、大好きな海のことを学べる毎日は新鮮で楽しかった。 3年ほど漁師として働く中で、海や釣りと同様、人と話すことが好きな寺谷さんは周りから「遊覧船の船長やったらどう?」と勧められる。 自分の船で海に出て、お客さんを案内して楽しませる遊覧船の船長。船があれば釣りにも行ける。 「これは自分にとって天職なんじゃないか?」 そう考えた寺谷さん、2022年に約1000万円の船をローンで買い、漁師から遊覧船「リイネ(Re:INE)」の船長へ転身した。 日本海側に位置する伊根町の冬は雪が降る厳しい寒さのため、遊覧船の稼働時期は3月の春休みから、11月の末まで。夏の7~9月が繁忙期だ。 朝8時から夕方5時まで、1回25分程で伊根湾を周遊し、大人1名の料金は1000円。稼働できない季節があっても年収は、サラリーマン時代の1.5倍になった。 現在、伊根湾の遊覧船は全部で5艘だが、今年もっと増える予定だそうだ。当然、競争があるため「その回毎のお客さんに合った楽しませ方、接し方」をどう工夫するか、日々奮闘している。 「遊覧船に乗るときって、楽しみ方が人それぞれ違うんですね。静かに集中して写真を撮りたい人もいれば、伊根についての案内、話を聞きたい人もいる。その時に乗ってくれたお客さんがどういうニーズなのかを素早く感じ取り、満足度の高い遊覧、時間を提供できるよう、毎回頑張ります。 船長の仕事はトークショーみたいなものでもあるので、人とコミュニケーションするのが好きな僕にはやりがいがありますね」(寺谷さん・以下同)