世界の高級ブランドも認める「尾州ウール」 創業135年、岐阜の老舗繊維メーカーの挑戦
東海道新幹線で名古屋から北西へ約10分の距離にある岐阜県羽島市。隣接する愛知県北西部にまたがる地域一帯は「尾州」と呼ばれます。 海外の一流ブランドが手がける高級スーツの生地は、実は「メイド・イン・尾州」ということが珍しくありません。 業界全体が斜陽といわれるなか、創業135年の老舗繊維メーカー「三星毛糸」は、海外のラグジュアリーブランドに相次いで採用され、再生ウールを使った高品質な衣服の企画販売などの多彩な新規事業で注目されています。
【岩田真吾(いわた・しんご)】 1981年愛知県一宮市生まれ。 1887年創業の素材メーカー「三星グループ」の5代目として、岐阜県羽島市を拠点に世界中を飛び回っている。 慶応義塾大学卒業後、三菱商事、ボストン・コンサルティング・グループを経て2010年から現職。 欧州展開や自社ブランド立ち上げ、ウール回収再生プロジェクト「ReBirth WOOL」などを進める。 2019年、ジャパン・テキスタイル・コンテストでグランプリ(経済産業大臣賞)受賞。 2022年、Forbes JAPAN起業家ランキング特別賞受賞。
ウールの古着を回収して再製品化
2023年1月31日、三星毛糸(本社・岐阜県羽島市)の岩田真吾社長(42)は東京国際フォーラム(東京都千代田区)にいました。経済産業省が主催した「次代を担う繊維産業企業100選」に同社が選出され、同日開催された「ファッション・ビジネス・フォーラム2023」のなかで授与式があったのです。 〈貴社は、我が国繊維業界が抱える課題に果敢に取り組まれてこられました〉 岩田さんが手にした選定証には、そう記されていました。 5代目社長として家業を継いで12年、「むかしからアイデアマンタイプだった」という岩田さんは、歴史ある日本の繊維業界と同様、ドラスティックな変化が難しい老舗企業で“新しい価値”を生み出してきました。 その象徴的な取り組みのひとつが、三星毛糸が手掛ける再生ウール製品のブランド「ReBirth WOOL(リバース ウール)」です。 天然素材の羊毛でつくるウール製の古着などを一般消費者から回収し、衣類として再利用する取り組みで、古着のウール部分を反毛機などでほぐして綿の状態にし、それにバージンウールを加えて糸にして製品化します。2022年に回収と再生がスタートし、2023年秋から「買えないセーター」としてレンタルのみのユニークな展開を進めています。 ウールが、じつは何度でも再生可能な素材だという特性に着目した“サステナブル(持続可能)”な取り組みです。