スポーツクライミングで東京五輪銅メダルの野口啓代さん、夫を支える立場で臨むパリ五輪「楽しんで納得のいくパフォーマンスをする姿を見届けたい」
パリ五輪開幕まで26日であと3か月。スポーツクライミング女子で、東京五輪銅メダリストの野口啓代さん(34)は支える立場として2回目の五輪を迎える。東京五輪後に引退し、同年12月に男子で東京五輪4位、パリ五輪代表の楢崎智亜(27)と結婚。ミセスとなり、23年に第1子を出産してからも夫を常に近くでサポートし続ける。“クライミング界の女王”が夫婦メダリストへの道や五輪への期待感、私生活を語った。(取材、構成=手島 莉子) 2回目の五輪。ミセスとなり立場は変われど、4年に1度の大舞台に懸ける思いは変わらない。野口さんは「東京五輪は自分のことでいっぱいいっぱいでしたが、今回は夫の智亜にとっての2回目。パリは有観客にもなりますし、楽しみです」と爽やかに笑った。五輪の新種目として注目を浴びた21年東京大会。優勝候補だった智亜は4位だった。一方、野口さんは銅メダルを獲得。それだけに「五輪はメダルか、メダルではないかで差があります」。表彰台へのあと一歩を夫婦の力で埋め、パリに乗り込む。 公私ともに最高のパートナーだ。現役中と変わらず7歳年下の夫に助言を続けており、智亜からは「主観的な感情や感覚だけではなく、客観的な意見をもらうことで、より課題が明確になった」と信頼が一層、厚くなった。特に東京五輪で足を引っ張ったリード力向上は必須。野口さんは「いかに効率よく上部まで力を残しておけるかが大切。最小限の必要な力を入れる」と説いた。 智亜は、もともとアクロバチックな動きが得意だが、それではエネルギーを使いすぎてしまう。「体の使い方を変えると、前できたものができなくなる可能性がある。リスクがあると思いましたが、変えていかないと劇的によくするのは難しい」と智亜も納得。体幹を鍛え、腕だけでなく体の中心を使うよう心掛けた。 さらに柔軟も強化。可動域が広がることは「力を抜く」動作にもつながる。肩、背中など大きいパーツはもちろん、手首、指、足の裏まで就寝前にほぐすようになり、智亜のクライミングは「丁寧で繊細な動きになってきています」と野口さん。人によっては簡単に登っているようにも見えるといい、今季W杯開幕戦ではいきなり優勝してみせた。 昨年5月に第1子となる女の子を出産。パパになった智亜は「本当に愛情深い」。生まれた時に肌が弱かったまな娘に、智亜は一日に何回も入念な保湿ケア。「女の子はやりたいことをやってくれたら」と話していたが、さすがクライマー夫婦の娘。「家にある棒にぶら下がれるようになっています」と潜在能力は抜群だった。 野口さんは「智亜に負担をかけないように、仕事も子育ても頑張らないと」と腕をまくる。智亜は「だからこそ、僕はトレーニングを頑張らないと」と力を込める。互いを思い合うことで、力は倍以上だ。パリ五輪本番は娘と現地で雄姿を見守る。「もちろん金メダルを取ってほしいですが、楽しんで納得のいくパフォーマンスをする姿を見届けたいです」。気遣いのないエールには愛情があふれていた。 【展望】 男子日本代表は、東京五輪4位の競技第一人者・楢崎と、昨季から台頭した大型ルーキー・安楽宙斗(そらと、17)=千葉・八千代高=。安楽は昨シーズンW杯初参戦にしてボルダー、リードともに年間王者となる快挙を達成。昨年9月のアジア大会ではボルダーもリードも首位で完全優勝を成し遂げた。力を逃がしながら登る自称「ふわふわクライマー」で、海外からも警戒されている。 楢崎は昨年8月の世界選手権3位で内定し、勝負強さが光る。昨季からリードに力を入れており、10日のW杯(中国)は優勝。日本の両選手ともメダル獲得の可能性が高い。東京五輪銅のヤコブ・シューベルト(オーストリア)、昨季のW杯で活躍したトビー・ロバーツ(英国)、コリン・ダフィー(米国)らも表彰台を狙う。 ◆野口 啓代(のぐち・あきよ)1989年5月30日、茨城・龍ケ崎市生まれ。34歳。11歳の時にグアム島でフリークライミングを体験。2002年に小学6年で全日本ユース選手権を制した。08年ボルダリングW杯で日本女子初優勝。同W杯年間優勝4回(09、10、14、15年)。21年東京五輪で銅メダルを獲得し、現役を引退。同年12月に東京五輪4位の楢崎智亜と結婚、23年5月に第1子となる女の子の出産を発表した。現在はクライミング界発展のための活動などを行っている。
報知新聞社