<聖光・春に駆ける>’22センバツへの軌跡/上 負けた先輩たちに衝撃 OBが協力、猛練習重ねる /福島
4年ぶり6回目のセンバツ出場を決めた聖光学院の道のりは、決して平たんではなかった。 昨秋の県大会6試合のうち、先制したのは2試合だけ。毎試合、得点圏に走者を置くも、あと一本が出ず残塁を重ねた。「力のないチームの典型だ」。斎藤智也監督(58)はそう言った。選手たち自身も「力がない」「弱い」と自覚していた。 それでも、強くなりたいという気持ちだけは揺るがなかった。その原動力は昨夏にあった。 2021年7月20日、郡山市のヨーク開成山スタジアム。夏の福島大会準々決勝・光南戦で、先輩たちが負けた。史上最多タイとなる14大会連続の甲子園出場が絶たれた。 三塁側のスタンドから見つめていた赤堀颯(はやと)(2年)は「頭が真っ白になった」と記憶している。その試合に2年生として唯一出ていた捕手の山浅龍之介も同じ気持ちだった。試合は山浅の空振り三振で終わったからだ。泣き崩れ動けなくなるのを、当時の主将、坂本寅泰(3年)に抱き寄せられ、申し訳なさで胸がいっぱいになった。 「完璧に仕上がったチーム」と内外から評価された先輩たちでも負ける――。野球の怖さを思い知らされた。新チームの主将となった赤堀や山浅、エースの佐山未来(2年)らナインは猛練習を重ねた。「先輩たちが行けなかった甲子園に行く。日本一を目指す」。それが合言葉になった。 県大会4回戦では、その光南に佐山が13奪三振1失点で完投し、雪辱を果たした。決勝の東日大昌平戦も八回に逆転し、頂点をつかんだ。ナインが歓喜の声を上げてスタンドへ走ると、先輩たちが拳を突き上げた。 打撃を強化するため、東北大会までの約1カ月間、前エースの谷地亮輔(3年)らが投手を務め、本気でぶつかってくれた。その効果もあり、大会では機動力に加え、準々決勝、準決勝で2桁安打を放つ勢いも見せた。 ただ、そこまでだった。決勝で花巻東(岩手)戦に敗れたナインは、グラウンドで人目をはばからずに泣きじゃくった。「これが偽りのない本当の悔しさなら、これから力をつける原動力になるんじゃないかな」。斎藤監督はつぶやいた。赤堀は目を赤くし、「大一番で負ける僕らの弱さを痛感させられた」と言った。 1月28日。センバツ出場の吉報に赤堀は気を引き締めていた。「今の力では目標の日本一を達成することはできない。出場校の中で一番熱い、一日一日を積み重ねて挑みたい」。これが今の、偽らざる、主将の決意だ。 ◇ 東北勢初となる甲子園制覇に向け、聖光学院が始動した。春への軌跡をたどり、課題を探る。【玉城達郎】