深海の世界に引きずり込み、“トラウマ”をあたえる FZMZ・HONNWAKA88×制作陣が語り合う1st VRライブ『DEEP:DAWN』の裏側
たしかな手応えと、その先
――再公演も含めて、全公演が終了した心境をお聞かせください。まずは制作チームのみなさまから。 ReeeznD:僕はライブの当日、配信と『VRChat』を両方見ていて、 結構バタバタしていました。ライブ中の同時接続数も見る余裕がなかったほどです。あとから確認したところ、『VRChat』側では初回がおよそ800人、再演が3,112人、再々演が2,914人でしたね。再々演は『Vket Real 2024 Summer』と日程がかぶっていたので、条件的に不利かなと思いましたが、みんな来てくれてうれしかったですね。 ――『VRChat』内の同時接続3,000人は、『VRChat』開催イベントとしても記録的な数値です。私も観測していて相当におどろかされました。 ReeeznD:ここまで人が来てくれたのは、ゲリラライブによって「あれよかったぞ。すげえもん見た」という口コミが広がり、友達同士で誘ってくれたことが大きかったと思います。しっかりと人々に響いて、数字が順当に伸びていったのを見て、「ちゃんとできてよかったな」と感じましたね。「つぎのFZMZ見に行こうぜ!」ってXで誘い合っている人を何人も見ましたし、「FZMZというバンドと、彼らの楽曲を、いいものに乗せて人々に届ける使命」を全うできたなと。 キヌ:『DEEP:DAWN』を見た後に継続してFZMZの話をしている人もたくさんいて、しっかりとFZMZを好きになって帰ってもらえたんだなって感じました。 ReeeznD:がっつりと、見た人の思い出に食い込んで、すごく好きになってくれた人がいるんだなと感じますね。FZMZそのものを体験して、思い出がトラウマのように残る、これもVRライブならではの独特の体験かなと思います。 玉田デニーロ:最初の公演をデスクトップモードで観覧した人たちが「これは絶対にVRで見たいから、VRゴーグル買います!」と宣言して、実際に買って戻って来る人がいたのが印象的ですね。新規層を開拓できているのかなと思いました。 作った身としては、現実の制約も決まったルールもなく、なにをやってもいいVRライブで、普通のライブとは全く違うベクトルで色々と考えて取り組んできたのですが、それがちゃんと反応として返ってきたので、「向いている方向は間違いじゃなかった」と思えましたね。 ――実際、「『シャンフロ』は知っているけど、FZMZは知らない」という人も多いなかで、いわば不利なポジションからスマッシュヒットを打てたなという印象です。 玉田デニーロ:海外の方がめちゃくちゃ多かったのも印象的ですね。海外のアニメ人気が高まっているのをあらためて体感しました。『シャングリラ・フロンティア』って、海外人気も強いですからね。どの国からでも参加できる環境で、しっかりといろんな国のファンが集まっていて、そうした人の流れを感じ取れてよかったです。 ――続いて、出演者側の感想としてHONNWAKA88さんはいかがでしょうか。 HONNWAKA88:とにかく、いろんな方からリアクションをいただきました。見てくれると思ってはいなかった友人からも「見たよ!」と連絡が来たほどです。ものすごくたくさんのインスタンス(会場)が開いていたことにも驚きましたし、こっそり会場を見に行ったら、知ってる人も知らない人もいっぱいいて、これだけ大勢の人々が見に来てくれたことを純粋に嬉しく思いました。やってよかったなぁとすごく感じました。 同時に、こんなにいいものを作っているから、今回以上に、もっと多くの人に見てもらいたかったなとも強く感じましたね。多くの人に知ってもらう、体験してもらうにはどうしたらいいかなと、ライブが終わった充実感や嬉しさと同時に思いました。このあたりは、我々のものづくりとはまた別の話で、一朝一夕でどうにかなるものではないと思いますが、より多くの人に触れてもらえるような場所にするにはどうしたらいいか、考えていきたいですね。 ――そのあたりはちょうど、スタンミさんなどのストリーマーがきっかけで多くの新規層が流入しているのが追い風かもしれませんね。 HONNWAKA88:そうですね。ただ、一方でここ(『VRChat』)にもともといた人たちのことも大事にしたいですね。難しい話ですが、ただ「見つかればいい」ってものでもない。「どうやって見つけてもらうか」によって、文化の未来は大きく変わってきます。 世間から「新しい場所」と呼ばれるところには、実際にはもともと住んでいた人がいて、その人たちの文化や暮らしがあるものです。そこに美しさ、面白さ、そして可能性を見出した、新しい人がやってくる。ところが、その人たちによってルールが改定されてしまうと、もともと住んでいた人たちが「こんな場所だったっけ」となり、去ってしまう――これは人類史、文化史の中で何度も繰り返されてきたことだと思うんですが、それはもったいないことだし、何より「もともといた人たちに失礼だよな」という感覚があります。 なので、この成長・拡大がちゃんと真っ直ぐなものであってほしいなと願うばかりですね。そして、FZMZの中では自分が一番メタバースをやってきていますし、上手く次につなげていく役回りを担えればなと思います。
文=浅田カズラ、写真=三沢光汰