興行成績不振、内容に対して厳しい批判の声も 『マダム・ウェブ』の長所と短所を考える
『マダム・ウェブ』は良くも悪くも典型的な「SSU」作品?
そして何より本作は、シドニー・スウィーニー、イザベラ・メルセド、セレステ・オコナーが演じる少女たちと、キャシーとの交流やガールズトークが、最も楽しい部分だ。まさに、ここが楽しめるかどうかが、鑑賞者の全体の評価にかかわってくるのではないか。 アメリカの批評サイト「Rotten Tomatoes(ロッテントマト)」を確認すると、現時点において批評家の評価のスコアが低いのは確かだが、一般のオーディエンスによるスコアはそれほど低くはない。これは、批評家が往々にして多角的な要素から映画の価値を考えていくのに対して、一般の観客は純粋に楽しめたかどうかで判断する傾向にあるからだと考えられる。つまり、キャラクターの魅力や、やり取りの面白さなどの面では、本作はそれなりに観客を楽しませているといえるのだ。 そして、じつはこのような評価は、これまでの「SSU」全てに当てはまっているといえる。筆者は、過去の『ヴェノム』2作において、この批評家とオーディエンスの反応の乖離について、「Rotten Tomatoes」のスコアを基に論じている。 『マダム・ウェブ』が、『ヴェノム』や『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』、『モービウス』に比べ、現時点でややオーディエンスのスコアが低いのは確かではあるが、おしなべて「SSU」の作品は、こういったものだということもまた、確かなのだ。それはこれらの作品が、ストーリーやアクションの革新性というよりは、やはりキャラクターや関係性の魅力を何よりも優先してきたということを意味している。そういう考えでいけば、本作は良くも悪くも、典型的な「SSU」作品であるということなのだ。 また興行成績の面では、これまで飛ぶ鳥を落とすような勢いを誇ってきたアメコミヒーロー映画全体の興行面での失速も考慮に入れるべきだろう。これには、ディズニーおよびマーベル・スタジオがドラマシリーズに力を入れたことで、アメコミヒーローを題材にした大作の数が増えてきたことにも原因がありそうだ。観客はマダム・ウェブのような能力を持っていないため、時間に余裕がなければヒーロー作品を網羅することは難しくなってきている。 確かに本作は内容の面で、展開が強引に感じられ、演出面で目を見張るようなところも多くはない。しかし、『ヴェノム』シリーズや『モービウス』にも共通している欠点を持つ『マダム・ウェブ』は、とくに批判の的にさらされ、極端とも思える激烈な意見がぶつけられていると感じられる。 『スター・ウォーズ』続三部作や、『ゴーストバスターズ』(2016年)、『キャプテン・マーベル』(2018年)など、女性を主人公にした娯楽大作がSNSや評価サイトなどで、度を超えて暴力的な声にさらされた事実があるように、そこに鑑賞者の女性差別的な見方が影響しているのだとすれば、非常に残念なことだ。ちなみに、このような嫌がらせや、女性ヒーローへの偏見を題材としたMCUドラマシリーズに『シー・ハルク:ザ・アトーニー』がある。 もちろん、興行や批評、世間一般のイメージをかたちづくるものには、他にもさまざまな要因がある。その全体像というのは、これ以降のDCスタジオ作品やマーベル・スタジオ作品も含め、アメコミヒーロー大作、一作一作にどのような反響があるかによって、より明確化していくことになるのだろう。 そう考えれば、マダム・ウェブはじめ、本作に登場した女性のスパイダーヒーローたちが、今後活躍を続け、特大ヒットや高評価を叩き出すようなことがあれば、本作の価値が一気に上がることもあり得るはずである。本作『マダム・ウェブ』で描かれた、キャシーや未来のスパイダーヒーローたちが心を通わせ、互いに互いを必要とする存在になっていく過程は、そのときにより感慨深いものになるはずだからである。