おかえりなさい、早見和真さん 「ジャックの“1ばん”さがし」「アルプス席の母」にこめた思いとは(後編)
2008年のデビュー以降、日本推理作家協会賞受賞の「イノセント・デイズ」や山本周五郎賞受賞の「ザ・ロイヤルファミリー」など、多くの話題作の発表を続ける小説家早見和真さん=東京都。16~22年には松山市を拠点に活動し、愛媛県内では愛媛新聞で連載する童話「かなしきデブ猫ちゃん」シリーズの作者としてもおなじみだ。 新刊のPRのために来県した早見さんに、愛媛への思いや東京での執筆の様子などを語ってもらった。(聞き手・山本憲太郎) Q.3月15日には最新作「アルプス席の母」が発売。名門高校野球部での経験を基にしたデビュー作「ひゃくはち」以来、15年ぶりに高校野球を題材に選んだ。 A.東京・調布市のボロアパートで書いたひゃくはちでデビューし、そこからはじゅうたん爆撃のようにいろいろなジャンルやテーマを書いてきた。ひゃくはちが図らずも売れたことによって2作目以降も「高校野球で」という依頼は多かったけど、一貫して断った。それが「イノセント・デイズ」を書いて伊豆を離れ、「八月の母」を書いて松山を離れ、東京に戻るとなった時にもう一度ひゃくはちをやりたいと思った。小説家として2周目の始まりだという感覚が強くあった。 Q.主人公は選手でも監督でもなく、球児の母親。グラウンドの外からの視点で高校野球が描かれていく。 A.じゃあ実際に書こうとなった時に、どう頭をひねっても、無我夢中で主人公の補欠球児になりきって書いた、しかも1400枚の原稿を500枚にまでそぎ落としたひゃくはちには勝てないと思った。だけど、この15年の間で親になり、甲子園の見え方が変わった。さらに新型コロナ禍の球児と監督に密着したノンフィクション「あの夏の正解」(初出は愛媛新聞連載)を経て、ずっと抱いていた高校野球への恨みがほどけた感覚もあって。今の自分が書くなら親の視点だというのがしっくりきた。
愛媛新聞社