コーチングは簡単に稼げない孤独な仕事である
■コーチとは驚くほど大変な努力を要する仕事である これまでエグゼクティブコーチとして仕事をしてきた間に、筆者らは何百もの人々から、どうすれば自分もエグゼクティブコーチになれるかと質問された。驚くほどのことではないが、この3年はとりわけ、そうした問い合わせが増えた。コロナ禍で仕事の世界が根本的に変化したからだ。 単にそうした事例があったというだけではない。国際コーチング連盟(ICF)の2023年グローバル・コーチング・スタディによると、世界でコーチとして開業した人の数は10万9000人以上と推定され、2019年から2022年までの3年間で54%増加している。 コーチになる方法を聞いてくる人々は、おそらくこの職業に価値を見出しており、コーチングが人を支援する強力な手段であることを認識し、コーチとして開業することで柔軟かつ自律的に働けることを理解している。そしておそらく、自身がコーチングを受けて有益な経験をしたことがあるのだろう。実に喜ばしいことだ。だが、そのような人々に伝えなければならない真実がある。 それは、コーチとは驚くほど大変な努力を要する仕事だということだ。 というのも、多くの人がコーチングとは何かを誤解し、資格認定されたコーチになる過程を甘く見ている。この仕事で生計を立てたいと思ったら、ビジネスを創出して展開するための継続的な努力が必要であることを想定していないのである。 筆者らは5人合わせて約60年のコーチング経験を持ち、5人ともこの仕事を心から愛している。コーチングというやりがいのあるキャリアを築くための「秘訣」を、一人ひとりが持っている。攻略法は一つではない。クライアントを何人持つべきか。ほかの収入源として何を考えるべきか。1日に何時間、コーチングに費やすべきか。どのようにしてクライアントを獲得し、維持するか。そして最も重要なこととして、この仕事はどれくらい大変なのか。本稿では、あなたがコーチングの夢を実現できるように、それらを明確にしていきたい。 ■コーチになりたい理由 コーチングは人を支援する仕事である。私たちは人を手助けする時、しばしば「ヘルパーズハイ」(ランナーズハイのようなもの)を経験する。人間は生来、向社会的行動を取るようにできていて、人を支援して報酬が得られるというのは、たしかにウイン・ウインのように見える。 この職業に関心を持つ多くの人は、自分には生来のコーチングスキルがあり、それをキャリアに活かせると思っている。それに加えて、これまでに蓄積した知識や経験を人と共有したくなるキャリアの段階にいるのかもしれない。あるいは、社内政治や上司に仕えることにうんざりし、さらに自律性と自主性のある仕事をしたいと願う時期にいるのかもしれない。人々はかつてなく、いつ、どこで、どのように働くかを、柔軟に自分でコントロールすることを求めている。 もう一つ、同僚やクライアントから聞かされる喜ばしい理由がある。少なからぬ人がコーチングによって強烈な肯定的変化を体験したので、今度は別の立場からそのプロセスに関わりたいと思っている、というのである。 ■コーチングにまつわる誤解 コーチングにまつわるよくある誤解を解消する前に、コーチングとは何かを明確にしておこう。ICFの定義によると、コーチングとは、「クライアントが個人およびプロフェッショナルとしての可能性を最大限に発揮できるような、思考を刺激する創造的プロセスに、クライアントのパートナーとして関わること」である。コーチングのプロセスを通して、それまで活かされていなかった想像力、生産性、リーダーシップが引き出されることがよくある。 エグゼクティブコーチングは、スポーツにおけるコーチングとは異なる。スポーツのコーチは指示し、指導し、戦略を練り、アスリートを勝利へと駆り立てる。多くの面で、スポーツコーチは言わば運転席に座り、チームは乗客である。エグゼクティブコーチングでは、コーチは乗客の席にいて、クライアントが運転する。スポーツコーチはプロセスを導入するが、エグゼクティブコーチングではクライアントが選ぶ方向に進み、クライアントが探求したいものを探求する。これは、意欲的なコーチが最初はなかなか理解できないマインドセットである。 具体的に言うと、エグゼクティブコーチングは以下のことをしない。 ・教示、指示、アドバイス コーチングでは、クライアントがみずからを振り返り、意識を高め、もともと持っている知恵を活用して、新しい自己認識と自己理解に至るように支援する。 ・コンサルティング、問題解決 コンサルティングは問題とそれを取り巻く状況に焦点を当てるが、コーチングは人に焦点を当て、その人が問題に取り組むのをサポートする。2つの選択肢のどちらかに決めなければならない場合、コンサルタントは徹底的に分析して、専門家としての助言を提供するが、コーチは選択肢が何であるかさえ知らなくてよい。コーチは解決策を提供するのではなく、クライアントが問題を自分で解決するのを手助けするために存在するのである。 ・メンタリング 私たちがメンターに頼るのは、人生経験から学んだ知識を伝授してもらうためである。「私はその状況で、このように対処しました」というせりふは、コーチではなくメンターのものである。コーチはクライアントの課題を経験していなくても、根本的な変化を生み出せる。コーチングの技術によって、クライアントが自分の専門能力を発揮できるよう支援するのである。 ・フィードバック 「コーチングが必要です」と言う人は、実はフィードバックを求めているのかもしれない。だがフィードバックが最も有効なのは、同僚やマネジャーが直接提供する場合である。コーチは、クライアントが受けたフィードバックを消化できるように手助けし、受けたいと思った時にフィードバックを受けられるようサポートする。 上記はすべて、支援をする人にとって不可欠なツールである。ただ、コーチングのツールとは別物である。コーチは、役に立つと判断した時にはこうしたツールに頼ることもあるが、コーチングという仕事の基盤はコーチング独自のコンピテンシーにある。