【データで見る】カブス今永昇太15勝、イチローも指摘した慣れない1年目での「自分超え」を実現
<データで見る2024シーズン・メジャー日本人編> プロ野球の快記録や珍しい記録からシーズンを振り返る連載「データで見る24年」。全13回で、プロ野球を球団別に12回、最終回は日本人大リーガーを記録から分析します。 【写真】今永昇太、UFOキャッチャー大成功で雄たけび ◇ ◇ ◇ 「1年目で自己最多15勝」 大リーグ1年目の今永昇太投手(31=カブス)が15勝を挙げた。DeNA時代のシーズン最多勝利は19年の13勝だから、米国で自己最多となった。もちろん日米では土俵が違うので単純に比較できないが、かつてイチローが「こちら(米国)で日本の自己記録を上回る人はあまりいない」と指摘していたのを思い出す。この見方は確かに当たっている。現行のシーズン試合数は日本143、米国162と米国が19試合多いにもかかわらず、慣れない1年目で「自分超え」はそう簡単に実現しない。 日本人大リーガーは今季まで通算72人がプレー。このうちメジャーデビュー前にNPB経験のない鈴木誠、多田野数人、田沢純一、加藤豪将、NPB登板が3試合と少なかった村上雅則を除く67人を対象に、先発投手は勝利数、救援投手は抑えがセーブ、中継ぎはホールド(日本は05年制定)、打者は安打か本塁打を比べると、渡米1年目に日本時代のベストを上回ったのは、今永を含めイチロー、松井秀喜、岡島秀樹、前田健太の計5人。67人中5人(約7%)だから、クリアは難しい。18年大谷翔平は自己タイの22本塁打で更新に1本及ばなかった。 日本人1年目の規定投球回到達は8人目。8人のうち勝率8割3分3厘は唯一の7割超え。3・5を超えると一流とされるK/BB(三振と四球の比率)の6・21は、日本人どころか1900年以降の近代メジャーで新人史上最高だった。 「回転数高い直球が要因」 活躍の要因となった球種は質のいいフォーシーム(直球)だ。フォーシームの平均球速91・7マイル(約148キロ)は、同じ球種を投げた規定到達55人のうち48位。さほど速くない一方、毎分のスピン量は平均2442回転で7位と高く、バットの芯を外した。フォーシーム全1347球のうち、739スイングで76安打は振っても約9割が安打にならない。全投球の52%を占めるほど信頼できる球種だった。 昨季は千賀の「お化けフォーク」、今季は今永のフォーシームと、生命線の球種がメジャーの打者を牛耳った。勝負できる一芸の持ち主はまだいる。最速165キロの佐々木朗希は球速で支配できるか。個性ある日本人投手の挑戦が続く。【織田健途】 (おわり) ◆フォーシーム 直球、ストレートと同じ。シームとは縫い目のこと。人さし指と中指をボールの縫い目にかけて握り、バックスピンさせて投げた時、ボールが1回転する間に縫い目が4度現れる。球の後部にできる空気の渦が小さい。きれいに浮き上がるような球筋で変化がほとんどなく、最も球速が出る。 ■上沢直之 日本ハムからポスティングシステムで移籍し、レイズとマイナー契約。3月中に金銭トレードでレッドソックスに移籍した。デビュー戦の5月2日ジャイアンツ戦は救援登板。2回を投げ打者6人を1人も出さず、日本人のデビュー戦で2回以上を投げ無走者は初めて。 ■前田健太 米通算1047奪三振となり、日本人では(1)ダルビッシュ2007(2)野茂1918に次ぐ3人目の1000個に到達。7月から中継ぎに配置転換となり36歳のシーズンを終え日米通算165勝。目標の200勝へ踏ん張れるか。カージナルス戦に勝った5月1日は山本、今永も勝ち、日本人史上初となる1日3人の先発勝利だった。 「日本人左腕初の200奪三振クリア」 ■菊池雄星 7月にブルージェイズからアストロズにトレードで移籍。ブルージェイズ在籍時は4勝9敗、防御率4・75も、アストロズで5勝1敗、同2・70と良化。移籍後初登板の8月2日レイズ戦では、いきなり球団タイの8者連続奪三振。同25日オリオールズ戦では自己最速の98・8マイル(約159キロ)を出した。日本人左腕初の200奪三振もクリア。オフにエンゼルスと3年契約を結び、開幕投手候補になっている。 ■千賀滉大 右肩痛でキャンプ中に離脱。7月26日ブレーブス戦に勝ち日米通算100勝(日本87勝、米国13勝)を達成したが、左ふくらはぎを負傷し、レギュラーシーズン1試合に終わった。ポストシーズンで復帰するも3試合0勝1敗で勝利はお預け。 ■山本由伸 5月7日マーリンズ戦で試合開始の初球から19球連続ストライク。全投球の追跡を始めた00年以降では球団新となった。パドレスとの地区シリーズでは26歳で勝ち、07年松坂、13年田沢の27歳を更新する日本人最年少でのポストシーズン勝利。ワールドシリーズでは07年松坂(レッドソックス)以来、日本人2人目の勝利を挙げた。 「NPB含め初のオール先発勝利での200勝到達」 ■ダルビッシュ有 5月19日ブレーブス戦で野茂、黒田に次ぐ日米通算200勝。NPBで200勝を達成した24人を含めても、初めてオール先発勝利で200勝到達となった。日米通算203勝(日本93、米国110)は日本人最多の黒田に並んだ。プロ入り20年目となり、大リーグでの実働年数(出場した年数)は12年目。日本人投手の実働12年は野茂に並ぶ最長。通算12シーズンで勝利は、野茂の11シーズンを上回る日本人最多に。日本人最年長の開幕投手も務めた(37歳7カ月)。 ■松井裕樹 日米通算250セーブにあと14に迫って渡米したが、抑え起用がなくセーブなし。64試合登板はスアレス(65試合)に次ぎチーム2位。日本人1年目の登板数は(1)18年平野75(2)04年大塚73(3)06年斎藤72(4)07年岡島66(5)23年藤浪64で藤浪に並ぶ5位。同地区の大谷との対戦は5打数3安打(右飛、右2、左2、空振り三振、左2)と3長打を許す完敗。 「1番打者50戦超出場で1901年以降初の打点」 ■大谷翔平 大リーグ史上初の「50-50」(50本塁打以上で50盗塁以上)をマークした。54本塁打、130打点、59盗塁はいずれも日本人最多。打率はアラエス(パドレス)に4厘差の2位で3冠を逃すも、本塁打、打点の2冠(打点王は日本人初)。主に1番打者で打点王となる快挙だった。打順別の打点は1番で90試合84打点、2番で69試合46打点。1番打者で50試合以上に出場しての打点王は、ア、ナ両リーグ体制となった1901年以降初めて。1番を打った時に初回の打点は先頭打者本塁打6本の6点しかなく、常に下位打線から回ってくる打順ながら2打席目以降に打点を稼いでタイトルにつなげた。 ■吉田正尚 8月19日アストロズ戦で日米を通じて初の代打本塁打。勝ち越しの場面で放ち、殊勲(先制、同点、勝ち越し、逆転)の肩書が付いた代打アーチは日本人で通算6本目。左手親指の付け根を痛めて離脱など、2年目は出場108試合にとどまり、10月には右肩関節唇の修復手術を受けた。 ■鈴木誠也 打率は2年連続10傑入りの9位。2年連続で向上したOPS(出塁率+長打率)はリーグ8位の・848。ナ・リーグ外野手ではドジャース4番のT・ヘルナンデス(・840)を上回る最高だった。通算55本塁打は城島(48本)を上回る日本人右打者最多。3年連続2桁本塁打は日本人右打者で初めて。スタメン4番が通算112試合となり、日本人で100試合以上は松井秀喜(205試合)に次ぎ2人目。