日本はなぜ最低賃金を5%も引き上げるのか
[ハンギョレS]チョン・ナムグの経済トーク 円安の影「実質賃金下落」 円安で輸出実績が大幅好転 日経平均株価が史上最高値を更新 実質賃金は26カ月連続で下落 「民間消費を生かすには賃金を上げなければならない」
日本経済新聞が東京証券取引所のプライム市場に上場している銘柄から225銘柄を選んで算出する「日経平均株価」(日経225)は、日本の証券市場を代表する株価指数だ。今年に入っても上昇の勢いを続けてきたこの指数は、11日の取引で4万2426.77円まで上昇した。史上最高値だった。 ■「失われた30年」から抜け出したというが 1989年の景気好況後、バブル崩壊を経て、長期下落傾向を続けてきた日経平均株価が上昇傾向に転じたのは、2012年末からだ。第2次安倍政権に入り、いわゆる「アベノミクス」を展開し始めた時期とほぼ一致する。デフレの悪循環から抜け出すことを目標に、果敢な金融緩和と財政支出拡大を追求したこの政策は、円安に転じさせた。この政策は、安倍首相が同年9月26日の自民党総裁選で勝利したときに明らかにされ、12月の総選挙が実施される前から円と株価を動かした。2012年10月末の1ドル79.76円から今年6月末には160.39円にまで価値が低下した。同期間中に日経平均株価は8928.29円から3万9583.08円に上昇した。 円安は、米連邦準備制度理事会(FRB)が2023年3月にゼロ金利から抜け出し、基準金利を引き上げ、米国と日本間の金利差が徐々に広がると、2023年以降に激化した。円安は輸出企業の実績好転を導き、輸出割合が高い上場企業の株価上昇をもたらした。日経平均株価は円安が激しくなった2023年と2024年上半期に上昇の勢いが特に目立ち、2023年中には28.2%も値上がりし、2024年上半期にも18.3%上昇した。 日経平均株価は11日の取引で4万2426.77円まで上昇し、翌日から急落傾向を続けた。これは、日本の上場企業の株価上昇が円安にいかに影響されているのかを示している。円は11日の取引で1ドル161.62円から25日には152.66円まで円高が進んだ。FRBの基準金利引き下げの時期が延期され続け超円安が続いていた円が、米日の金利差縮小への期待感が高まったことで急激に円高に転じたのだ。すると、9取引日後には日経平均株価が10.3%も急落した。 実際ドルで取り引きをする外国人投資家の計算では、日経平均株価の上昇率はそれほど高いものではない。2012年10月末の111.94ドルから今年6月末には245.96ドルと119.7%増え、11年8カ月間で年平均6.98%の上昇だ。同期間で米国のニューヨーク証券取引所のダウ指数は、1万3096.46から3万9118.86と198.7%上昇し、年平均上昇率は9.83%に達する。日経平均株価が大幅に上がったといっても、円の価値の下落分を考慮すれば、収益率はダウ指数には及ばない。もちろん、同期間に1912.06から2797.82へと46.3%上がったに過ぎない韓国のKOSPI指数は、ドルに換算すると上昇率は15.5%にすぎず、年平均上昇率は1.24%とはるかにみじめではある。 これに先立ち、日経平均株価は2月22日に歴史的な記録を打ち立てたことがある。1989年12月29日の史上最高値3万8957.44円(終値は3万8915.87)を34年ぶりに超えたのだ。これについて、日本経済がいわゆる「失われた30年」から抜け出した象徴だと主張する人たちがいる。日本経済新聞は19日付の連載コラム「大機小機」で、「設備投資が人工知能(AI)など次世代対応型を中心に増え始め、昨年の春季労使交渉から大企業中心に目立った賃上げが行われるようになった」として、「日本経済は『失われた30年』から脱出する段階に入ったとみている」と主張した。しかし、国内総生産(GDP)の成長の推移をみると、このような楽観論は根拠が貧弱だ。 ■日本、最低賃金引き上げという「劇薬処方」 コロナ禍の局面では日本経済もマイナス成長になった。2020会計年度(2020年4月~2021年3月)の実質成長率は-3.9%だった。ところが、2021年に3%成長して2022年にも1.7%成長すると、楽観論が浮上した。物価上昇率もプラスに転じた。しかし、2023会計年度の成長率は1%にふたたび低下した。四半期ごとの成長率の推移をみると、よりいっそう活力が落ちている。前期比の成長率が2023年1~3月の1.2%から4~6月に0.9%へと下がった後、7~9月には-1%を記録した。10~12月には0%成長をして、2024年1~3月には-0.7%成長となった。後退している。 日本経済の慢性的な問題は民間消費の不振だ。家計最終消費支出は、2023年1~3月に前期比で0.7%増加したのを最後に、4~6月は-0.7%、7~9月は-0.3%、10~12月は-0.4%、2024年1~3月は-0.8%とマイナスが続いている。日本の国内総生産に民間消費支出が占める割合は50%を上回るため、民間消費が復活しなければ、経済が好循環に向かうのは難しい。日本がデフレの悪循環に陥ったことも消費不振によるものだった。 展望は決して明るくない。労働者の実質賃金水準が落ち続けているためだ。日本の消費者物価指数は2019年は0.5%の上昇にすぎず、2021年には0.2%下落した。そうしているうちに、世界的なインフレが起きると、円安にともなう輸入物価の上昇まで重なり、上昇率は2022年に2.5%、2023年は3.2%と上がった。今年6月時点でも前年同月比で上昇率は2.8%に達する。ところが、名目賃金が物価上昇率ほどは上がらず、実質賃金は下落を続けている。厚生労働省が8日に発表した毎月勤労統計調査の結果によると、5月分は1人あたり実質賃金は前年同月比で1.4%減少し、26カ月連続で減少傾向を続けた。2020年を100とした実質賃金(5人以上の事業体)指数は、2022年は99.6、2023年は97.1で、今年1~5月は平均で84.6にまで落ちた。 日本政府が劇薬処方として出しているのは、最低賃金の大幅引き上げだ。労働者の生活の安定なしには民間消費は復活しないとみているためだ。厚生労働省の中央最低賃金審議会は24日、10月から適用される最低賃金の全国平均勧告分を5%(50円)引き上げ、時給を1054円に上げた。昨年も43円(4.5%)上げているが、今回さらに大幅に引き上げたのだ。日本の最低賃金は、この勧告分を基準にして各都道府県の審議会が決める。 韓国でも1人以上の事業体の労働者1人あたりの月平均実質賃金は2022年に0.2%減り、2023年に1.1%減少したのに続き、今年1~4月は累積で0.9%減少した。3年連続の実質賃金減少は初めての事態だ。そうしたなか、内需沈滞が長期化している。韓国は来年の最低賃金を、今年の物価上昇率の展望値である2.6%(韓国銀行)に比べ大幅に低い1.7%のみ引き上げた。 チョン・ナムグ|論説委員。ハンギョレ経済部長、東京特派員を歴任。『統計が伝える嘘』などの著書がある。ラジオやTVで長く経済解説をしてきた。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )