「理想の表明」「雅趣に富む」「少し意外」 新元号『令和』識者はどう見る
なじみ深く「日本人にとっての古典」
山梨大学名誉教授の佐藤正幸氏は、新しい元号が漢籍ではなく、日本の古典である万葉集から選ばれたことを強調する。 「古典とは、50年、100年の単位ではなく、500年、1000年単位で、読み継がれてきている書物を指す。この点で、日本最古の和歌集である『万葉集』は、1200年間、日本人に読み継がれてきている古典中の古典であり、中国の古典よりなじみがある。日本人の多くが学校の古典の時間に『万葉集』を読んできており、いつの時代にも日本人に親しまれた和歌集であることを考えると、まさしく日本人にとっての古典だ」 引用されたのは、九州・大宰府での梅の花を愛でる歌会で32人が詠んだ歌の序文の部分。「その中にある『初春令月氣淑風和』という漢文表現を、『初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やわら)ぎ』と書き下し、そこから令と和の二文字を採って名付けた『令和』は、実に雅趣に富む言葉」と新元号を評価する。 その上で「元号は『このような時代が来てほしいとの願いを込めて国の内外に宣言する』という性格も有するが、平和を希求する現代日本が国内外に向けた『名乗り』としても、実にふさわしい元号名だと思う」と述べた。
最初は違和感「今後どんな時代を築いていくか」
静岡福祉大学名誉教授の小田部雄次氏は、令和の「和」が昭和で使われていることや、「令」が命令の令でもあることから「少し意外だと思った」と新元号の感想を語る。 一方で「江戸時代に『令徳』が候補になったことがあったが『令』という字は初めて。『令』にはすがすがしいの意味もある」と述べ、「平成のときも最初は違和感があったが、なじめるものだと思う。言葉に理想を込め、今後何十年間、新しい天皇と私たちがどういう時代を築いていくかが大事」と新しい元号の時代への期待を示した。 万葉集からの引用については「幅広い文献から採るのは日本的でいい」。安倍首相が会見で「天皇や皇族、貴族だけでなく、防人や農民まで幅広い階層の人々が詠んだ歌集」であることを採用理由として説明したことにも「趣旨もいい。日本風土に根ざしたもので、良いものを選んでくれた」と述べた。 ただ、日本の古典から選んだ理由が「中国文化からの引用が嫌だからという意図ならよくない」と指摘した。 さらに、新元号決定までの進め方についても言及した。元号を改めるのは政令なので天皇陛下が署名されたが、「天皇は関わらないことになっている元号法の盲点だ」。また「安倍首相や自民党ばかりが仕切っていているように見え、野党は衆参の副議長だけ。元号法の原則がないがしろにされている」と政治の関わり方に注文をつけた。