エスカレーター、大阪の「右立ち」始まりは1967年ごろの阪急電鉄のアナウンス 東京の「左立ち」は1989年ごろから自然発生的に【企画・NAGOYA発】
◇第35回「エスカレーターは『両側立ち』!! 名古屋スタイルを全国発信」その2 エスカレーターの片側を空ける乗り方が大都市を中心に定着している現実がある。それを打破しようとしているのが名古屋市だ。2023年10月に、事故防止を目的に立ち止まって乗ることが条例で義務付けられ、市内の駅構内などでも両側に並んで利用する姿が目立つようになってきた。有識者の一部では「名古屋スタイル」と呼ばれており、他の大都市もこれをお手本に取り組み始めているという。“名古屋発”の新たな行動規範が日本各地に拡散しつつある。(構成・鶴田真也) ◆エスカレーターの新スタイルを全国へ発信 NAGOYA発【動画】 ◇ ◇ ◇ エスカレーターの利用史をひもとこう。大阪、神戸などは右側に立って左側を空け、首都圏などそれ以外は左側に立って右側を空けるといわれる。そのようになったのはいつごろか。 エスカレーターの歴史に詳しい江戸川大の斗鬼正一名誉教授は「1967年ごろに大阪の阪急電鉄がエスカレーターや動く歩道が設置された梅田駅で右側に立ち、左側を空けるようアナウンスしたのがきっかけ」という。 東京については「89年ごろに自然発生的に右空けの習慣が始まった。駅は階段がほとんどだったが、バリアフリーの観点からエスカレーターの設置が増えたことが大きい」と指摘。右側を歩いて利用する習慣は「日本ではかつて車だけでなく駅構内の歩行者も左側通行だったため」とする。 右側通行で左側が追い越し車線の国を中心に世界的には左側を空ける例が多く、左側通行のシンガポール、オーストラリアは右側を空ける。例外は左側を歩くように呼びかけが行われた英ロンドン、香港、さらに大阪、神戸など―だ。 このほかエスカレーターで歩いたり走ったりすることは「トリセツ違反」と警鐘を鳴らす。日本エレベーター協会のホームページによると、エスカレーターでは「ステップの上を歩いたり、走ったりしないでください」とあり、メーカーの取扱説明書にも「歩かずに利用してください」などと明記されている。 斗鬼名誉教授は「建築基準法上でも別物。階段は建築物、ステップの高さも階段は法律で決まっているが、エスカレーターは機械で、歩くことを前提としていないので法律で基準が決まっていない。だから、トリセツに従わなくてはならない。条例違反以前のこと」としている。 埼玉県で全国初のエスカレーター条例が施行されたが、実地調査では名古屋のような顕著な数値を得られなかった。東京で片側を歩く習慣がなかなか解消されないことについては「同調圧力の壁がある。だから他の人にならって率先して右側に立ち止まることができない」と断言。関西については「右側に立つ習慣が歴史的に長いこともある」と補足した。 今後は法律や条例などで罰則を科す規定を導入することもあり得えなくはないが、「新型コロナ禍のマスク警察のようになる恐れもある。市民が意識して“ファーストペンギン”になることが大事」と啓発した。 ◇ ◇ ◇ ○…名古屋が発祥、由来だったという古今東西の事柄や事象を取り上げ、徹底した取材に基づいて歴史や秘話を深掘りする中日スポーツの異色の連載企画「NAGOYA発」が書籍化されます。発売は2025年4月の予定。 21年10月に始まった連載で第35回となる今回で一区切りとなります。書籍では、紙面やウェブサイトで紹介した数あるテーマの中から厳選し、今まであまり知られていなかった名古屋の魅力と秘密をたっぷりと掘り下げます。 問い合わせは中日新聞出版部=電話052(221)1714へ。
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