たった一言で世界が大転換する…「世界で活躍する能楽師」のセリフに隠された「スゴい秘密」
一句で世界を大転換させる名手の発した、「衝撃のひとこと」
その方だけではありません。 能に『安宅』という作品があります。歌舞伎の『勧進帳』のもとになった作品です。源義経や弁慶が山伏に扮して安宅の関を通るという話。義経は山伏の従者のふりをしている。しかし、高貴な人なので、隠しても隠しきれないオーラがある。扮装していてもバレそうになった。そこで弁慶は義経を棒で打つ。主君である義経を打つ。心の中で泣きながらの打擲です。 それでも疑う関守である富樫に、山伏一行はつめよる。押された関守は刀に手をかけたまましばらく対峙した後に「近頃聊爾を申して候」と言う。 名優が発すると、この一句で場面がガラッと変わります。 ある役者の方が発したこのセリフがすごかった。文字通り、その一句で世界が大転換したのです。舞台の余韻に浸って楽屋にいる私に、その方は「安田、ところで『聊爾』ってどんな意味だ」と聞かれたのです。※(りょうじ:失礼) 「え!」 衝撃でした。その方は「これはこんな意味だ」と考えながらセリフを発しているのではない。意味は関係ない。正しく「うたわれる」ことが大事なのです。 声に出し、節をつけて「うたう(歌う、謡う、詠う)」、それが私たち能楽師にとっての「うた(歌、和歌)」です。 * 『なぜ人は「うたう」のか…『息』という字をひも解くと見えてくる、「うた」が人類生存に不可欠だったワケ』(10月23日公開)へ続く
安田 登(能楽師)