「妊娠したら辞めて」教育委員会のマタハラを“証言” 都のSC大量雇い止めは「女性差別の問題」だ
夜間、時任さんの仕事が終わるのを待っていた管理職と一緒に最後に学校を出ることもあるという。学校からの業績評価はオールA。雇い止めを伝えた保護者たちは一様にショックを受けていたという。 「『ここでしか話せないのに』『4月からだれに相談すればいいんですか』と言われました。『教育委員会に電話します。PTAでも問題にする』とおっしゃってくれた人もいました」と時任さん。子どもや保護者と面談を重ね、もう少しで専門機関につなげるための提案ができそうだったケースもあったが、それもご破算だという。築いてきた信頼関係まで、新しいSCに引き継ぐことは難しいからだ。
ほかのSCたちと同じく時任さんにとっても雇い止めは寝耳に水だった。 「新しいSCを育てることは必要だと思います。でも、だからといって学校から信頼されている力のあるSCをこんなに大勢切る必要があるんでしょうか。それによって一番困るのはだれなのか。都教委は考えてほしい」と訴える。 20年近くSCとして歩んできた半生について、時任さんはこう振り返る。 「子どもを産まなかったことを後悔しているわけではないんです。でも、その分仕事だけは続けたいと思ってきました。SCは私の生きがいです」
時任さんは2つの小学校を受け持っている。雇い止めによる減収は約340万円になる見込みだ。 SCは女性の割合が高いとされる。SCたちが加入する東京公務公共一般労働組合「心理職ユニオン」が今回の大量雇い止めを受け、X(旧Twitter)とはがきの郵送によるアンケート調査(回答数728件)を実施したところ、全体の76%が女性だった。総務省の調査でも、非正規公務員である会計年度任用職員は8割が女性。都のSCに女性が占める割合とほぼ同じである。
非正規公務員の賃金水準の低さや身分の不安定さはこれまでも社会問題となってきた。一方で会計年度任用職員制度そのものには、任用方法や賃金水準、休暇制度において直接的な男女間格差はない。しかし、この制度を“平等”に運用した結果、不利益を被るのは圧倒的に女性である。これを「間接差別」と呼ぶ。 「妊娠したら辞めていただきます」という言葉はマタニティハラスメントであると同時に、都のSCの大量雇い止めは女性差別、間接差別の問題でもある。