冨樫義博『幽☆遊☆白書』実写ドラマは原作漫画をどうアップデートした? 幽助 vs 戸愚呂弟の興奮再び
『DRAGON BALL』『SLAM DUNK』『ジョジョの奇妙な冒険』と、今も高い人気を誇る作品が連載されていた1990年代前半の「週刊少年ジャンプ」で、最も勢いがあったと少なくない人が思っている漫画が、90年から94年にかけて連載された冨樫義博『幽☆遊☆白書』だ。バトルの連続と逆転のドラマで毎週の連載から読者の目を離せなくした。92年から放送のTVアニメも大好評だったこの作品を、Netflixが30年の時を経て実写ドラマ化。漫画から飛び出してきたようなアクションの迫力に、改めて原作はどうだったのかと確かめたくなる。 【写真】Netflix「幽☆遊☆白書」とZOZOTOWNがコラボした限定アイテム 短ランを着て髪をバックにした少年が立っている。見下ろすと血まみれになって横たわった自分がいる。どうやらトラックにはねられて死んでしまったらしい。そこに現れた和服の少女。少年はまだ死ぬ運命にはないと告げて霊界に連れて行く。漫画に描かれていた展開が、実写ドラマとなったNetflixシリーズ『幽☆遊☆白書』では、北村匠海という俳優の肉体を得て再現されている。 北村が演じる浦飯幽助は、原作では中学生だったがNetflixシリーズでは高校生となっていて、北村の精悍な表情とスリムな肉体がマッチしたキャラクターになっている。幽助をライバルと見なしてケンカをふっかけてくる桑原和真は上杉柊平が演じていて、原作のようなリーゼントヘアではないものの、長身の学ラン姿と幽助にあしらわれてもへこたれない性格で、そこに桑原がいると思わせてくれる。 幽助を霊界へと連れて行ったぼたんという名の和服の少女は、『どうする家康』や『リボルバー・リリー』で独特の演技を見せてくれた古川琴音が演じ、子供の姿になることなく町田啓太が演じ続けたコエンマと共に幽助や桑原を導く。小悪魔的な雰囲気がある古川のぼたんは、明るい美少女といった漫画やTVアニメのぼたんとは少し違っているが、触れる者をみな傷つけそうな北村の幽助には、古川のようなつかみ所のないタイプの方が似合っているようにも思える。 漫画やTVアニメを実写にした時に、キャラクターの見た目が似ているかどうかが可否の判断基準のひとつになることは確かだが、Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』の場合は外見については現代風にアレンジされていたり、演じる役者に沿うように変更されていたりするところがある。その分、古川なら役者としての個性を味わうことができる。一方で志尊淳が演じる蔵馬は、漫画やTVアニメの美麗さをどうしてそこまでと思えるほどになぞっている。本郷奏多が演じる飛影も、カミソリのような切れ味を秘めたキャラを体現している。共に原作ファンも納得の造形だ。 そして幻界。強くて恐ろしげだが頼りがいもある女性ならこの人しかいないという梶芽衣子が、まさに幻界といった佇まいで幽助や桑原を鍛え上げる。ドラマを見て原作の漫画を読み返すと、TVアニメで演じた京田尚子の声に重なって梶の声が聞こえてくるようになるかもしれない。それくらいの強い存在感を見せてくれるが、さらに強烈なのが、『幽☆遊☆白書』にあって、もしかしたら幽助よりも高い人気を誇っているかもしれない戸愚呂弟だ。 演じたのは綾野剛だが、どちらかといえば痩身の肉体を、VFXによって加工し筋肉を膨張させ、漫画やTVアニメに出て来た30%、そして100%といったグロテスクとも言える姿に変えてみせる。そんな姿の戸愚呂弟と激突するところまでを、『幽☆遊☆白書』というシリーズにおけるひとつの区切りと捉えている人には、実写ドラマは十分に応えた内容になっていると言えるだろう。 ただ、原作なら全19巻ある単行本の13巻までを使って描かれたストーリーを、5話のドラマにぎゅっと詰め込んだ形となっているため、端折られてしまったところは少なくない。ある意味ダイジェストとも言える内容で戸愚呂弟の存在を再認識し、現実の役者が推しキャラを再現してくれる“2.5次元"の喜びを味わった後で、新ためて原作を読み返してみたくなる。 そうすることで、冨樫義博がどのようにキャラクターたちを造形し、どのように成長させていき、そしてクライマックスとも言える幽助vs戸愚呂弟へと繋げていったのかを再確認できるのだ。 霊界に行ってコエンマから生き返る条件として課せられた霊界探偵の仕事で、幽助は蔵馬と飛影を追うことになって飛影と戦い、勝利を収めることで相手に自分の力を認めさせ、ひとつのチームになっていく。その結果として、暗黒武術会という、「週刊少年ジャンプ」誌上では『DRAGON BALL』の天下一武道会と並ぶバトルトーナメントに幽助、桑原、蔵馬、飛影ともうひとり、謎の覆面と出ることになる。そこで戦いながら桑原が霊剣を発動させ、蔵馬が妖狐となりといった具合に、それぞれが強さを高めお互いを必要な存在と意識していく。 幽助も、決勝での戸愚呂弟との戦いを想定して壮絶な修行を行い、そして迎えた決勝戦で蔵馬は鴉、飛影は武威、桑原は戸愚呂兄といったいずれも強敵を相手に戦って、それぞれに圧巻の見せ場を作る。どちらが勝っても不思議のないスリリングなバトルが、週をまたいで続いていくのだ。連載時も、そしてTVアニメの放送時も盛り上がらないはずがなかった。ドラマ版に足りないところがあるとしたら、連載のようなどこまでも見ていたくなるスリリングさだろう。 その究極が、幽助と戸愚呂弟との戦いだ。すべての力を見せずとも、幽助を圧倒する戸愚呂弟の強さに誰も勝てるとは思えなかった。けれども、そこは少年漫画の主人公。最後は勝つのだろうといった予想も働かせながら、ではどうやって勝つのかといった疑問も抱いてページをめくっていく中で、仲間の危機があり悲劇的な離別もあってどん底へとたたき込まれたその先で、究極まで力を出し切った2人の激突が待っている。 そこで浮かぶ高揚感は、エピソードを重ね、巻を積み上げる間に描かれた出会いがあり、成長もあったからこそ。一直線に決戦まで行くドラマにも興奮はできるが、じわじわと高まっていく感じは、エピソードの豊富な漫画なりTVアニメならではのものだと言える。戸愚呂弟と幻界との関係についても、原作ならもっと奥深いところまで近づける。 少年漫画週刊誌に連載されていたこともあって、コミカルなシーンが挟まれるのも原作の特徴だった。そこに、デッサンのように描き込まれた右京の顔などが挟み込まれて、楽しげに見えても苛烈なストーリーが進んでいることを意識させた。肉体を持った役者を使い現実世界に物語世界を再現させたようなドラマではそぎ落とされた、剛柔を織り交ぜて読ませる冨樫義博の漫画センスを味わいたければ、やはり原作の漫画を読むなり、TVアニメを見る必要がありそうだ。 戸愚呂弟と人気を二分すると人によっては思っている敵キャラ、美しい魔闘家鈴木にも会えるから。
タニグチリウイチ