ラーメンの進化は師弟のパスが美しく繋がれてこそ
栃木県・小山の「卯月屋(うづきや)」もそうだった。「卯月屋」の主人・岸さんの修業先は、調布若葉町の「しば田」で、その「しば田」の味を忠実に再現したようなラーメンだった。
現在、店はすでに閉店してしまったが、神保町「黒須」のラーメンは私の大のお気に入りだった。そこで修業された中込さんが高円寺に「中華蕎麦 一心」を開いて、ラーメンの味ばかりか、黒須さんの実直なスピリットまで受け継いでいるのを見ると、実に頼もしい。
さらに青梅の「Ramen FeeL」の渡邊さんは、湯河原の超人気店「飯田商店」出身である。とても品格のあるラーメンをつくっていて、味の洗練度は「飯田商店」のラーメンに勝るとも劣らない。
ただし、誰もが修業先のオリジナリティ溢れるラーメンを超えられる域まではいってない。どの職人もその仕事ぶりは真面目で、几帳面で、熱心であることが、カウンター越しに伝わってくる。ぜひとも、自分にしか出せない味を目指して、簡潔にして、洗練を極めたラーメンを生み出すことを期待したい。 どの若い職人も、師匠から絶妙のパスでボールを受け取ったのだから、師匠より前に進む責務がある。ラーメンが進化するとは、まさにこのことだ。
● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
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文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)