奈緒×木梨憲武『春になったら』は美しい時間をリアルに心に刻んだ
静けさのなかで見せる 奈緒の絶妙な表情
生と死を描きながら、どこまでも温かく賑やかに進んできた『春になったら』。だからこそ、雅彦がこの世を去ったあとの描写が響いた。父娘の思い出が詰まった家を映し出す、BGMのない数分間の静けさ。父の残した「やりたいことリスト」をタイムカプセルの缶に入れる瞳を演じる奈緒のなんともいえないやわらかな微笑み。 木梨憲武という、役者を本業としない人が今まで以上に自分のまま挑んだ雅彦という役。それを受け止め、一緒に歩んだ奈緒。その二人を取り囲む役者たち。そのおかげで、生のすばらしさ、死を受け入れること、日々の貴重さがおしつけがましくなくストンと心に落ちてきた。これから生きていくうえで、「いい一日」を感じたふとした瞬間に、あるいは身近な人の病を知ったときに、私は『春になったら』の美しさを思い出すのかもしれない。 ●『春になったら』(カンテレ) 脚本:福田靖 監督:松本佳奈、穐山茉由 出演:奈緒、木梨憲武、濱田岳 他 プロデューサー:岡光寛子、白石裕菜 主題歌:福山雅治『ひとみ』 FOD、Netflixにて全話配信中(有料) ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆 ●まつもとりえこ イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。 Edit: Yukiko Arai
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