主演福士蒼汰は30代で新境地へ。「現場では目を合わさなかった」もう一人の主演松本まりかは覚悟を持って難役を演じていた。
Q.他の役で印象的な方はいらっしゃいますか?
たくさんいますが、一人あげるとしたら、伊佐美役を演じた浅野忠信さんですね。意外と普通の人なんじゃないかと浅野さんがおっしゃっていて、監督も僕も思っていた伊佐美のイメージとは全く違う演じ方をしたんです。予想外の演じ方に正直撮影序盤は監督ともこれでいいのかと気にしていました。しかし、撮影が進むにつれ、終盤にはその伊佐美という役柄は確立されていったんです。最初から全部浅野さんの計算の中にあったことを思い知らされました。
Q. 原作がある中で、ロケ地の選定はどのようにされましたか?
出来る限り吉田修一さんが描いたことを忠実に再現できるようなロケーションを選ぶことを大切にしました。そこでお世話になった、滋賀ロケーションオフィスの担当の方が、たまたま原作の舞台である高島市の出身の人だったんです。原作の小説を読むと、作者の吉田さんがどこを見てどこを歩いているか全部分かるらしく、実際に、僕らも吉田さんと同じようなところをロケハンして選定していきました。
Q. 何といっても「湖」ですよね。撮る際のポイントはありますか?
原作で描かれている空気感を表現したかったので、原作に近い場所で撮影をすることで、観光地としての表情とは違う琵琶湖が表現できたと思います。湖はどこかに繋がっている海と違って閉じていて、よそ者を拒んでいるような不思議な雰囲気がある。カメラマンの辻智彦さんが、いろいろな湖のイメージを撮影してくれました。特にうねうねしているオイルのような気持ち悪い夜の湖面は大好きです。 それから対比となるハルビンの平房湖ですね。北海道の野付半島で撮影しました。中国でのロケはコロナなどの関係で難しかったので、国内で雪が積もっている湖を探していたのですが、これがなかなか難しく。野付半島は、実際には海なんですが、湾になっていて、湖のようでした。広すぎてみんなでスノーモービルに乗って、撮影地点まで行ったのが思い出です。
Q. 他にも印象的なシーンも多かったです。佳代が住んでいるエリアも気になりました。
そうですね。佳代が住んでいる家は「川端(かばた)」といわれる用水路を使った生活様式がある日本で唯一の地域です。景観や生活様式を大切に保存されている地域なのですが、地元の方の協力もあって撮影できました。全体的には、地元の人がおっしゃっていたのですが、前を見れば巨大な湖、後ろを見れば山々で、住むスペースが非常に狭いところにへばりついて生きてる、と。そんな雰囲気が、映画の個性にもなったと思います。 ※川端…各家を経由して用水路が張り巡らされ、生活用水として使われている。