グラベルにも世界選手権、そのルール「海賊の掟」を解説|竹下佳映のグラベルの世界
150マイルのスタートは早朝6時から
さて、レース距離は150マイル(約242km)で、カテゴリーもたくさんあります。総合優勝、年齢枠別、シングルスピード、タンデム、ビンテージ、ファットバイク。そのうち一輪車カテゴリーも出てくるかもしれません!? そして300マイル(約483km)のLong Voyage(長い航海)コースも今年から登場しました。その他、75マイル(約121km)コースや、初心者や長距離はまだちょっと……という人向けに50kmコースもあります。
アメリカチャンピオンから世界記録保持者のアシュトン・ランビーまで、豪華な顔ぶれ
私はケガからの完全回復はまだだったので、前の週に引き続き、短い75マイルコースでパーティペースで楽しむことにしました。メインコースは150マイルですが、75マイルコースもなかなか豪華な顔ぶれです。 特記したいのは、翌週にロードのステージレースを控えた現全米ロードチャンピオンのローレン・スティーブンズ。つい数日前に、4000メートルのトラック・個人パシュートの世界新記録3分59秒930を叩き出してメキシコから帰米したばかりのアシュトン・ランビー。トラック種目で全米チャンピオン11回、世界選手権でメダリスト3回、パンアメリカンゲームで金メダル3回獲得、MITからの博士号も取得しているクリスティーナ・バーチ。特にアシュトンはグラベルサポーターと知られています。普段は一緒にスタートラインに立つことのないさまざまな背景とレベルのライダーたちが、同じコースを同時に走れる……これはグラベルならではですね。 私は最初の1時間は先頭集団にくっついて行き、その後はリラックス。途中ボーイスカウトがテーブルを広げて水やスナックを売っているのを見かけたので止まって買い物したり、オアシス休憩所で立ち止まってボランティアと世間話したり、他のライダーを励ましたり、ナビゲーションやメカトラで困っているライダーを助けたりと、楽しく過ごしました。
例年ならあまりの暑さに「蒸発散」が見られる!
ネブラスカ州の愛称「コーンハスカー州」(トウモロコシの皮をむく人)の通り、トウモロコシ畑が延々と広がる風景が見られます。夏の蒸し暑さは凄まじく、早朝はトウモロコシ畑からの立ち上る「蒸発散」、蒸気が目で確認できる程の湿度です。 例年レース日はひどく暑く、私も初めて経験したグラベルワールドでは、呼気の熱さに「まるで口から火を噴いているようだ」を思ったのを鮮明に覚えています。空気はねっとりと肌にまとわりつき、楽なはずの追い風区間は風が全く感じられず逆に暑過ぎて死にそうになる、というのが常です。今年は当日の低めの気温、まさかの快適な自転車日和に誰もが驚かされました。グラベルはどこの場所も非常にいい状態で、若干緩いところもありましたが、テクニカルな部分はあまりありませんでした。 主催者が「リンカーンのグラベル海の波」と例えるような、コースの多くで見られる波打つアップダウンでは多くの参加者が苦戦したのではないかと思います。今年のコースは、リンカーンの北に位置するボヘミアン・アルプスと呼ばれる特に起伏のある丘が多い地帯に敷かれました。(※元々チェコからの移民が多く、故郷を思い起こさせる丘のある風景から)。 私が所属するABUSチームでは、150マイルでジョン・ボーステルマンが2連覇・男子総合優勝、リンジー・スティーブンソンが女子総合3位と、いい成績が出た日となりました。今回も数多くのグラベル仲間と会うことができて、私個人としても最高の週末となりました。グラベル・ファミリーに乾杯! 毎年規模も大きくなり成長し続けているけれど、当初のグラスルーツさを失わないグラベルワールド。いつまでもアットホームなグラベル・ファミリーであってほしいです。 追記)この記事を書いている最中に、UCIが2022年にUCI公認グラベルレースシリーズとUCI公認グラベル世界選手権を行うと言うニュースが飛び込んできたので、今後のグラベルがどういう展開になるのか気になるところです。